アクセスコントロールシステム

警備関連の仕事に就く場合、あるいはその準備段階において、求人票や職務記述書(JD)を見ると、「アクセスコントロールの管理」が職務内容として明記されていることがほとんどです。これはつまり、アクセスコントロールが警備業務において非常に重要な任務の一つであることを示しています。

アクセスコントロールとは、カードリーダーや顔認証などを用いて、特定の人が特定の場所にアクセスできるように制御する仕組みのことです。このアクセス制御はソフトウェアによって一括管理され、いくつかの代表的なシステムが世界中で導入されています。

本稿では、主に海外および日本国内の外資系企業で採用されているメジャーなアクセスコントロールシステムについて紹介・比較します。筆者は日系企業での勤務経験がないため、国内企業で独自に導入されている国産システムについては扱いませんので、その点ご了承ください。

なお、警護業務においては、こうしたアクセスコントロールシステムに直接触れる機会は少ないかもしれません。しかし、被警護者の住居やオフィスのセキュリティレベルを判断・調整する際には、システムの種類や機能を理解していることが重要です。

筆者はこれまでに LenelS2C•CURE の2つのアクセスコントロールシステムを実際に操作した経験があり、以下ではそれらの特徴も踏まえながら、各システムの比較と評価を行います。

アクセスコントロールシステムは、「誰が・いつ・どこにアクセスできるか」を管理するだけでなく、セキュリティ運用全体の可視化・自動化・効率化を実現する多機能なプラットフォームです。以下に主要な機能を整理します:

1. アクセス管理

  • 人・車両の入退室制御(時間帯・権限別アクセス設定)
  • ドア単位の許可/拒否設定(ゾーニング)
  • 多要素認証(カード+PIN、顔認証など)
  • リアルタイムの入退室ログ記録・確認

2. IDカード管理

  • IDバッジのデザイン・印刷(社員証、ゲスト用カードなど)
  • ユーザー属性(所属、役職、権限など)の登録・編集
  • カードの発行、無効化、再発行

3. アラームモニタリング

  • ドア強制開放、長時間開放、異常侵入などのリアルタイム検知
  • アラーム発生時の即時通知(メール・ポップアップ・音声)
  • イベントログの自動保存・検索
  • 地図(GUI)上でのアラーム位置可視化

4. ビデオ監視との連携(VMS統合)

  • アラーム発生時に該当カメラのライブ映像・録画再生
  • カメラビューとドア/ゾーンのリンク表示
  • タイムライン検索や顔認識データとの連携(Genetec、Honeywellなど)

5. 訪問者管理

  • ビジターの事前登録・予約受付
  • ゲストバッジ発行
  • 滞在履歴の記録・レポート出力

6. ユーザー管理

  • 権限グループの作成と適用
  • 社員データベースとの統合(LDAP, Active Directoryなど)
  • 自動失効、スケジュールによる一時的な権限付与

7. スケジューリング機能

  • 出入口の施錠・解錠スケジュール設定
  • シフトやイベントに応じた自動モード切替

8. 監査・レポート機能

  • 入退室・アラーム履歴のレポート出力(CSV, PDF)
  • 操作ログ(誰がいつ何をしたか)の監査機能
  • 定期レポートの自動配信設定

9. エレベーター制御

  • フロアごとのアクセス権設定
  • 時間帯・個人別の行先制限
  • 管理室での手動フロア開放も可能

10. インテグレーション(外部システム連携)

  • BMS(ビル管理システム)、消防システム、入退館システムとの連携
  • APIを用いた独自アプリとの統合
  • HR・勤怠システムとの連携による出勤管理

11. 災害対応機能(マス・ノティフィケーション)

  • 一斉アラート送信(メール、スピーカー、SMS)
  • 非常事態時の一括ロックダウン機能
  • 施設内滞在者の一括確認・出力

アクセスコントロール主要メーカー 比較表(国・強み・弱み)

メーカー名本社国強み弱み
Genetecカナダ(モントリオール)✅ 映像・アクセス・LPRの統合(Security Center)
✅ 高速で安定したUI
✅ オープンアーキテクチャ(他社ハード対応)
✅ クラウド&オンプレ両対応
❌ ライセンス体系が複雑
❌ 高機能ゆえに習熟に時間がかかる
❌ 日本市場ではLenelより知名度がやや低い
LenelS2(Carrier傘下)アメリカ(ノースカロライナ州)✅ 官公庁・空港・大規模ビルで実績多数
✅ 高度な認証・アクセス制御機能(OnGuard)
✅ 国際標準への対応が強い
❌ UIが古く、操作性が重い
❌ クラッシュやエラー報告が継続中
❌ 構築・保守に専門性が必要でSI依存度が高い
Honeywell(Pro-Watch)アメリカ(ノースカロライナ州)✅ BMS(空調・照明等)との統合に強み
✅ グローバル展開・導入実績が多い
✅ 一部OEM提供もあり柔軟
❌ アクセス制御単体では独自性に欠ける
❌ UI・APIの柔軟性が低め
❌ ソフトウェア技術はGenetecに劣る
Johnson Controls(C•CURE)アメリカ(アイルランド籍、実質米国)✅ 高セキュリティ施設(刑務所、研究所等)に強い
✅ 堅牢な構成と豊富なロジック設定
✅ C•CURE 9000で映像連携も可能
❌ UIが古く習得に時間がかかる
❌ API連携やサードパーティ接続が制限されがち
❌ 国内SIerによって導入品質に差が出やすい

選定のヒント

要件おすすめメーカー
映像統合・柔軟な拡張性Genetec
官公庁・防衛案件・既存資産との互換LenelS2
ビル制御全体との統合(BMS系)Honeywell
高セキュリティ・制限強めの環境C•CURE(Johnson Controls)

アクセスコントロールメーカーのUI比較

メーカーUIの特徴長所短所
Genetec(Security Center)🎛️ モダンで直感的なタブ式UI
管理者・オペレーター両対応の統合ダッシュボードあり
✅ 視覚的で分かりやすく、映像・カード情報・地図を一画面で統合表示
✅ 軽量でレスポンスも良好
✅ HTML5ベースのWeb Clientも利用可能
❌ 初見では機能が多すぎて戸惑う可能性あり
❌ 多機能ゆえにUIのカスタマイズ設計には準備が必要
LenelS2(OnGuard)🧱 従来型のWindowsフォームベースGUI
サブモジュール(Badge Designer、Alarm Monitor等)に分かれている
✅ 安定運用実績が長い現場では慣れていて運用ノウハウもある
✅ 詳細なカード管理・階層的な設定が可能
❌ 古くさいUIで動作が重い
❌ 画面遷移が多く、直感的でない
❌ レスポンスが遅く、マルチ画面運用にも不向き
Honeywell(Pro-Watch)🧭 シンプルなGUIだがやや古い設計
BMS連携を前提とした構成で、設備管理との統合ビューあり
✅ 他のビル管理要素と統一されたインターフェースが可能
✅ オペレーター向けには運用が簡素
❌ 表示が細かく可視化力が弱い
❌ 単体でのUXはあまり良くない
Johnson Controls(C•CURE 9000)⚙️ 高機能でモジュールベースのUI
イベントビュー・マップ・認証など機能分割型
✅ ロジック設定やシナリオ分岐を細かく設計可能
✅ 高セキュリティ施設での厳密な運用に適す
❌ UIが非常に複雑で玄人向け
❌ 初学者には理解しづらい、教育コスト高

総合評価:UI・UX観点での比較スコア

メーカー視認性操作性軽快さ習得のしやすさ総合評価
Genetec★★★★★★★★★☆★★★★☆★★★☆☆4.3 / 5
LenelS2★★☆☆☆★★☆☆☆★★☆☆☆★★★☆☆2.3 / 5
Honeywell★★☆☆☆★★★☆☆★★★☆☆★★★☆☆2.8 / 5
C•CURE★★★☆☆★★★☆☆★★★☆☆★★☆☆☆3.0 / 5

UI選定時のポイント

  • Genetec:映像監視やLPRも同時に使う場合、統合ビューが抜群に便利
  • LenelS2:既存ユーザーなら運用継続しやすいが、新規導入には不向き
  • Honeywell:ビル管理(空調・照明)を一括で監視したい施設に
  • C•CURE:高度なロジックを運用したいが、操作に習熟者が必要

アクセスコントロールシステムは、1つ使いこなせばすべてが理解できるわけではありません。むしろ、ある特定のシステムに慣れすぎていると、他のシステムの操作に戸惑うことさえあります。実際、筆者も最初にC•CUREを利用し、その後Lenelを使用した際、その操作性の違いにかなり戸惑いました。Lenelは特に動作が重く、クラッシュが頻繁に起こる点に驚かされました。

警護業務においても、こうしたシステムの基本を理解しておくことで、必要な判断や対応がしやすくなります。職場にこれらのシステムを導入している部署がある場合は、積極的に基本操作を学ぶことを強くおすすめします。

また、各メーカーはトレーニングプログラムや資格認定制度を提供しており、専門性を高めるための有効な手段となります。興味がある方は、公式サイトなどを通じて情報を収集してみてください。


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