セキュリティは一つの分野ではない ― Data Center Securityの専門書から考える分野横断の重要性

先日、X(旧Twitter)にも投稿したが、アメリカからChris Hills著の「Data Center Security」という専門書を取り寄せた。日本国内ではなかなか見かけない、データセンターのフィジカルセキュリティを実務レベルで扱った専門書である。

こうした書籍は日本ではほとんど流通していないため、やむを得ず海外から取り寄せることになったのだが、それをきっかけに、あらためてセキュリティという分野の広がりについて少し整理してみたいと思い、この記事を書いている。

セキュリティという言葉は非常に広い意味を持つ。フィジカルセキュリティ、サイバーセキュリティ、要人警護、企業セキュリティ、施設警備など、その領域は多岐にわたり、それぞれに求められる知識や技能は大きく異なる。同じ「Security」という言葉で括られてはいるものの、実務レベルではそれぞれが独立した専門分野と言ってもよい。

しかしながら、異なる分野の知識を学ぶことは決して無駄ではない。むしろ、他領域の考え方やオペレーションを理解することで、自身の専門分野をより深く、立体的に捉えることができるようになる。セキュリティという仕事は本質的に横断的であり、異なる分野の知見が思わぬ形で現場の判断やリスク評価に活きてくる場面も少なくない。

現在、日本において急速に存在感を高めている分野の一つがデータセンター(DC)である。データセンターは高度なフィジカルセキュリティが求められる施設であり、アクセスコントロール、監視体制、警備オペレーション、インシデント対応など、多層的なセキュリティ管理が日常的に運用されている。言い換えれば、企業セキュリティの実務が最も集約された環境の一つとも言えるだろう。

一方で視点を変えれば、このような施設が将来的に要人警護の舞台となる可能性も十分に考えられる。巨大テクノロジー企業の経営者やオーナーが施設を視察するケースや、重要インフラとしての性格を強める中で、特別な警護体制が求められる状況が生まれることもあり得る。あるいは、データセンターを保有する企業の経営層やオーナーの警護という形で、施設セキュリティと要人警護という二つの領域が交差する場面も出てくるかもしれない。

こうした観点から見れば、異なるセキュリティ分野を理解することは決して遠回りではない。むしろ、セキュリティの専門家として視野を広げ、複雑化するリスク環境に対応するためには不可欠なプロセスである。

しかし残念ながら、このような実務レベルの知識を扱う専門書は、日本国内では驚くほど少ない。セキュリティ関連書籍の多くは入門書や一般向けの解説書にとどまり、実務者向けの専門書となると選択肢は極めて限られている。

この背景には、書籍文化の違いもあるのかもしれない。アメリカでは「知識を買う」という考え方が広く根付いており、専門書は一般的に高額である。それでも必要な知識であれば投資として購入される文化があるため、数万円する専門書であっても一定の市場が成立している。一方で日本では、専門書に対して高額な価格設定が受け入れられにくい傾向があり、その結果として出版社側も市場規模を見込めず、専門性の高い書籍が出版されにくいという事情があるのではないかと感じている。

そのため今回も、やむを得ずアメリカから専門書を取り寄せることになった。

もっとも、こうした状況を嘆くだけではあまり意味はないのかもしれない。実は私自身、現在、要人警護に関する専門書の出版に向けて準備を進めており、今年中の刊行を目標に動いている。日本ではまだ数が少ない実務者向けの警護専門書として、現場の経験と実務的な視点をできるだけ体系的にまとめたいと考えている。

セキュリティという分野は、現場経験だけでも、知識だけでも十分とは言えない。実務と理論、その双方を積み重ねることで初めて、その全体像が見えてくる。

そして、その知識や経験を次の世代の実務者へ伝えていくこともまた、セキュリティに携わる者の一つの役割なのかもしれない。


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