「シャトル・サービス」のメリットとデメリット

エリザベス女王の葬儀の際に天皇陛下が他のVIPと共にバスに乗り込み現地に赴いた事が話題になりました。

各国のVIPが集うイベントで、警護が頭を悩ます一つがピックアップです。ドロップオフに関しては、混雑で多少遅れる事があっても、車内で待機出来るためピックアップほど悩みません。

しかし、ピックアップは大きなイベントサイトであったとしても、VIPの車寄せは稀に3車列を並べられるスペースがある場合もありますが、大抵は2車列並べたらギュウギュウになることがほとんどです。

多くのVIPが同じイベントに参加するので、入りの時間は多少違っても終わり時間はほぼ同時間です。リスクであるエクポージャータイムを減らすためにも待ち時間は少しでも減らしたいと、考えるのは皆同じでなので、一斉に車列を車寄せに呼ぶため大混雑が必至です。車列の呼び合いは、まさに戦争で、なかなか自身の車列が車寄せに入れずにフラストレーションから「おい、まだなのかよ!」などと警護官の怒号が響くことも珍しくありません。

こうした混雑を減らす為に少し前から始まったのがシャトル・サービスです。エリザベス女王の葬儀の際に天皇陛下が利用された乗り合いバス・タイプも有れば、横浜で行われたアフリカ開発会議(TICAD)で見られた車列が途切れなく車寄せに入るようにして、早いもの順でどんどん車列に乗り込むタイプのシャトル・サービスもあります。

決まった車列が車寄せに来るのを入り口で待つよりも、サッと車に乗り込み出発出来るのでなかなかVIPからは好評のサービスではありますが、やはり警護官からすると、きちんと自身でチェックした車でない上に、どんなドライバーに当たるかも分からないので、慎重になります。

素性が分からない車両、そしてドライバーが運転する車に乗るのにはそれなりのリスクがあるので、エリザベス女王の葬儀の際もそうであったようにアメリカ大統領を護るシークレットサービスやイスラエルのシンベットあたりはこうしたサービスを絶対に利用しません。

アメリカやイスラエルのような力がなく、それでいてシャトルサービスを利用したくない場合には、ピックアップサイトの変更や、VIPと交渉してイベントが終了する少し前、他のVIPよりも少し早くその場を去るようにするなどの対応が必要になります。日本人は言われたことを機械のようにこなす事や、ルールに従うことは大得意ですが、特に海外での警護では弱点となってしまうことが多いかもしれません。因みに現役当時、筆者は本来警護が入れない場所にもシレっと忍びの如く入りこむ事が得意で、他の警護官よりもいち早くVIPにアプローチすることで混雑から免れていました。他にも、歩けるVIPの場合には、車寄せではない場所に車列を待機させて、混雑を避けると言う方法もよく利用していました。

専用の車列を使うこととシャトル・サービスを使う事にはどちらにもメリットとデメリットがありますが、それぞれの利点と難点をよく理解し、それぞれで最適な方法を編み出す事が重要です。


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