ルールを超えるマインドセット ― ジェイソン・キッドの一例から警護業界を考える

NBAの往年の名ポイントガードであり、現在は指導者としても活躍しているジェイソン・キッドには、興味深いエピソードがあります。2013年11月28日、ネッツのヘッドコーチ時代にタイムアウトをすべて使い切ってしまったキッドは、残り時間わずかな場面でどうしても戦術を確認する必要がありました。そこで彼は選手タイショーン・テイラーに自らぶつかるよう指示し、手にしていたカップの中身をコートにこぼして試合を強制的に止めたのです。結果としてNBAから罰金5万ドルを科されましたが、その「どうにかして状況を打開する」メンタリティは、アメリカ的な発想を象徴していると言えます。

この姿勢は、警護業界にも通じるものがあります。日本のSPは、海外任務の際にも「日本人の代表」としての誇りを胸に、常にルールを遵守し模範的な行動を心がけています。その姿勢自体は高く評価されるべきものであり、国際社会において日本の信頼性を支えているのも事実です。しかし、現場の実務として考えると「ルールを守ること」だけでは不十分なケースが存在します。

特にリスクが高い要人警護においては、想定外の状況が必ず発生します。海外では「ルールに明記されていないことはルールではない」という考え方が一般的であり、即応的かつ柔軟な判断が求められます。幸い、日本の要人は国際的な知名度が比較的低いため、現状では大きな支障が出るケースは多くありません。しかし、仮にリスクの高い人物を守る場面になれば、現状のままでは早晩限界が訪れるでしょう。

ここから学ぶべきことは明確です。ルールを尊重することは当然として、その枠を超えて「いかにして状況を打開するか」という発想を磨くことが、国際的な警護任務では不可欠なのです。キッドが見せたように「与えられた条件の中で最大限に勝利を引き寄せる」姿勢こそ、海外で警護に携わる者が身につけるべきマインドセットだと私は考えます。


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