以前にも1度ライン公式メンバー限定で記事を書きましたが、安倍元総理の事件を受け、ようやく日本の警護体制にも見直しが行われるようです。そこで、これまでもずっと個人的にその有益性に懐疑的であったSPが持つ「防弾カバン」についての見解をここに書きたいと思います。
警護や警備の専門家でなくても、「止まっている標的」と「動いている標的」ではどちらの方が狙うのが難しいかは分かると思います。そのことから警護では、安全が確保されていない場所では、出来る限り「止まる」という行為を避けるのが基本となっています。これは徒歩での移動であっても、車での移動であっても同じです。
防弾車であれば安全かと言えば、防弾仕様ではない一般的な車両に比べれば安全と言うことで、一か所に留まり、同じ場所に攻撃を受け続ければ、防弾車であってもその安全はもろく崩れます。
著者の前職、国連の警護ではAK-47の銃弾ですら貫通させないと言われるB7の防弾車を使用していましたが、それでも対象者を乗せている時には出来るだけ一か所に留まることがないよう、トラフィックパターンを読み、スピードの強弱で信号にもできるだけひっかからないよう心がけていました。
話がそれましたが、SPでお馴染みの防弾カバンは、他国の警護ですと韓国が日本と同じように使用していることで有名(?)です。しかし、これまで多くの国で警護に携わった著者の経験上、防弾カバンを採用している国は少数派でした。
A国の警護方法がB国でも全く同じように機能するかと言えば、それは違います。そのため、これまで防弾カバンを持つSPの警護スタイルで特に大きな問題が起きていなかったこともあり、敢えて疑問視していませんでした。しかし、今回このように大きな事件が起きてしまった以上、日本の警護体制は変わらなくてなりません。そして著者は、防弾カバンの携帯もこれを機に廃止してはどうだろうかと思っています。
防弾カバンの用途は、銃撃を受けた際、サッと開き「盾」のようにして銃弾から身を守ります。その用途から、その気はなくても相手の「攻撃を受け止める」という心理が働き、どうしても一瞬動きが止まる傾向にあります。
YouTubeなどの動画サイトにSPによる警護訓練の様子が上がっているので見ていただければ分かると思いますが、どの動画を見ても攻撃を受けたと同時にSPは素早い行動で防弾カバンをパッと開き、対象者を銃弾から護るのですが、この時どうしても避難までに一瞬動きが止まってしまっているのです。
これはSPだけでなく、韓国の警護でも同じことが言えます。良い例なのが、2022年3月24日に韓国で起きた朴槿恵元大統領が市民に挨拶の言葉を述べてる際に焼酎瓶が投げつけられた事件です。幸い、この事件は単独犯で、武器も焼酎瓶だったため、それ以上何事もなく済みました。しかし、著者は安全な場所に対象者を避難させることなく、防弾カバンを使用しているとはいえ、その場に立ち尽くした姿にとても違和感を覚えました。安倍元総理の警護と朴槿恵氏の警護を比べて、朴槿恵氏の警護を賞賛する記事も見ました。しかし、著者は安倍元総理の警護にも、朴槿恵氏の警護にも大差はなく、結果の違いは、武器の違いによるところが大きいと思っています。韓国の警護隊はすぐに防弾カバンを広げ、朴槿恵氏を囲み安全を護りましたが、武器が焼酎瓶ではなく銃だったら、それもハイパワーの銃だったら、そして複数犯だったら、ただでは済まなかったでしょう。
そして今回の安倍元総理の事件でのSPがそうであったように、日頃からそれなりの訓練をしていなければ、いざという時に防弾カバンをうまく開けないこともあります。防弾カバンのような盾を持っていなければ、誰かに言われなくても警護員は、対象者、そして自身を一刻もはやく安全な場所に避難させようとします。
海外の警護では、両手を常に空けておくことも基本とされています。基本的な避難では、警護員は聞き手とは逆の手で対象者の腰をコントール、そして聞き手で対象者の頭を低くさせます。反撃が必要な場合は、腰の部分を掴んだ手だけで対象者をコントロールし、利き手で銃等の武器を抜き反撃します。対象者の避難は、基本的に常に対象者の傍にいるPPOの役目ではありますが、状況によってはPPOより早く対象者に接触できる位置に他の警護員がいれば、PPOを待たずに対象者を避難させることもあります。こうしたこともあり、PPO以外の警護員も防弾カバンによって片手を埋めることはメリットよりもデメリットの方が多いように感じます。
そして著者は防弾カバンの使用方法自体にも疑問を持っています。銃弾というのは、一般的な9㎜弾ですら約350ft-lbsもの威力があります。防弾カバンはサッと開き上部の持ち手のみで下部は特に支えることなくダラーンとぶら下げて使用されていますが、果たしてそれで銃弾の威力を受け止めきれるのでしょうか。おそらくメーカーは、防弾性のテストをしていると思います。ただテストは、実際の使用方法に近い形でしなければなりません。海外の防弾ベストや防弾車のメーカーがしているように、テスト結果を動画等で公開して頂けると、こうした疑問も解消されると思います。
日本国内だけなく、海外にも大きな衝撃を与えた事件が起きてしまったので、なんらかの変更はあるかと思います。その際、誰かに責任を押し付け小さくまとめるのではなく、装備品までにいたる大胆な改革があることを期待しています。
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