海外の資格⑥ ESI

Executive Security International (ESI)は、「ボディガード界のハーバード」と謳うコロラド州にあるボディガード養成スクールです。

国連本部の警備隊に入隊した私は、当初Emergency Response Unit (ERU)やFire Unitを希望していたのですが、たまたま同僚に誘われて受けることになったTEESでの訓練で警護の仕事に強く惹かれるようになりました。

国連事務総長の警護チームに配属される為に、選抜試験に何度も申し込むも私の警護経験はTEESで受けた1週間の訓練程度で、他に何もなかった為、呼ばれることはありませんでした。そこで選抜試験に呼ばれるよう、経験を積もうとアメリカにあるボディガード養成スクールを色々調べた結果ESIにたどり着きました。

私がESIで受けた訓練は、コースを無事に終了するとCertified Protection Specialist (CPS)の証明書がもらえるExecutive Protection (EP)というコースでした。EPコースは、基礎から全てコロラドのグランドジャンクションにあるESIの施設で学ぶ28日間のレジデント・トレーニングと、基礎学習(レクチャー)はDistance Education(オンライン)で受け、残りの16日間のみを現地(コロラド)で指導を受ける2通りの選択肢がありました。

既に国連本部警備隊に就職をしていた私は、さすがに28日間も休みを取るわけにはいかず、後者のDistance Education+16日間のレジデント・トレーニングを選択しました。

Distance Educationでは、下記の9つのトピックについてのESIから送られてくるDVDを見たり、指定された参考書を読んだりして書いたレポートで評価が決まります。

  • Principle of Protection
  • Stalking and Other Dangerous Behavior
  • Bomb Search & Identification
  • Human Intelligence Collection
  • Fundamentals of Defensive Shooting
  • Etiquette for Security Professionals
  • Executive Protection Driving
  • Asset Protection
  • Special Event Risk Management

まだこの段階では警護の実務経験はありませんでしたが、大学での専攻がCriminology(犯罪学)で、関連したテキストはかなりの数を読んでおり、レポートを書いていたこともありDistance Educationの9つの課題は100%でパスすることが出来ました。全て英語で読み、レポートも英語で書く必要がありますが、期限などは特に設けられていないので、辞書を調べながらゆっくり自分のペースで9つの課題をこなすことも可能です。

16日間のコロラドでのトレーニングの前半は、ほぼ射撃訓練に費やされます。私以外の生徒は皆アメリカ人で、そのうちの8割が現役の警察官だったり、元軍人だった為、皆自分の愛銃を持ち込み訓練を受けていましたが、私は休暇を使って国連と関係なくこの訓練を受けていたので、国連の銃を持ち込むことも出来ず、ESIから借りた銃で訓練を受けました。

国連本部警護チームでは、射撃訓練は常にアイアンサイトを使い、光学照準器の使用は許されていませんでした。これは、アイアンサイトで正確に射撃が可能なら、便利な光学照準器を利用すればさらに正確に射撃が出来ると考えているからです。その逆でいつも便利な光学照準器を使用していると、いざ光学照準器が使えなかった際にアイアンサイトで正確な射撃をするのは難しいとも考えられています。

ESIでの私のように、使い慣れた銃が毎回使えるとは限りません。もしかしたら、自分の銃が故障してしまい、敵から奪った銃を使わないといけないなんてシチュエーションがあるかもしれません。ボディガードに限らず、危機管理のスペシャリストは、どんな銃でも最低限のレベルで使えないといけません。

ESIのインストラクターたちも似たような考えだったようで、クラスでは日本の「弘法筆を選ばず」ということわざを生徒たちに教えていました。たまたまではありましたが、日本人である私が愛銃ではなく、レンタルの銃で訓練を受けているのがいい例だとクラスメイトの前で絶賛され少々恥ずかしい思いをしました。

ESIのインストラクター、左のDr. Joe Bannon氏はハリウッド映画「エンド・オブ・ホワイトハウス(原題: Olympus Has Fallen)」シリーズの主演を演じたジェラルド・バトラーに演技指導をした人です。

ESIのEPコースの射撃は、日頃から射撃をしている人であれば、特に難しいものではないのですが、正確性は勿論、スピードも求められるので全くの初心者だと苦労するかもしれません。ただ毎日すごい弾数を撃つので、初心者でも根性さえあえば訓練が終わるころには、アメリカの制服警官の平均レベル程度の射撃技術は身につくと思います。

レジデント・トレーニングの後半は、チームを作り、実際に町全体を使ってシナリオをこなしながら、下記のトピックを学びます。

  1. Client Management
  2. Threat Assessment
  3. Technical Operations
  4. Behavior Recognition
  5. Stalker Exercise

ESIのすごいところは、創始者のボブ・ドゥーガン氏は、グランド・ジャンクションの町ではかなりの有力者なようで、地元警察も色々と融通を聞かせてくれるため、町全体を使っての訓練が可能となり、シナリオトレーニングも非常にリアリティがあり勉強になります。

ESI創始者Bob Duggan氏(左)とチームメイト

ESIのシナリオ訓練で一番記憶に残っているのは、ESIが雇ったボランティアが、シナリオ訓練期間中ずっと私のチームを影からサーベイランスしていたことです。訓練最終日前日に、ESIのインストラクターからそのボランティアが隠し撮りした私たちの写真を見せられたときはショックでした。私たちは警護ばかりに必死になって、カウンターサーベイランスを怠っていたのです。この経験はその後の警護人生で随分と役立ちました。国名は明かせないのでA国としますが、当初あまり我々を信用していなかったA国政府が、行動をずっと監視していたことに私がすぐ気づけたのはESIでの訓練のおかげだと思っています。

ESIの訓練は、授業料が高額なのが少々ネックですが、私がこれまで受けてきた訓練の中で、CPOC/RCPOC、ACADEMIに次いで3番目に有益で、自信をもってオススメ出来る訓練です。


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