現代社会において、スマートフォンは欠かせないツールです。業務連絡、ナビゲーション、情報収集など、警備・警護の現場でも正しく使えば業務効率を高める重要なデバイスとなります。しかし問題は、*「使うことそのもの」ではなく、「誰がどう使うか」です。
オフィスでアドミン業務や事務処理を行う警備員と、現場で巡回・監視を行う警備員では、同じスマホ利用でも結果やリスクは大きく異なります。
オフィス作業中にゲームに集中することは常識的に不適切ですが、現場警備員がゲームに没頭し、周囲が見えていない状態は、緊急対応の遅れや事故につながるリスクが高く、業務に直接的な影響を及ぼす可能性があります。
■「ゲーム障害」は国際的に認定された精神疾患
世界保健機関(WHO)は、国際疾病分類 第11版(ICD-11)において「ゲーム障害(Gaming Disorder)」を正式に精神疾患として分類しました。
これは、ゲームへの過度な没頭がアルコールや薬物依存と同様に、医学的治療を必要とする依存症であると世界が認めたことを意味します。
ICD-11における診断基準(要点)
- ゲーム行動のコントロールができない(開始・頻度・時間・終了など)
- ゲームが他の活動よりも優先される
- 問題が生じているにもかかわらず、ゲームを継続またはエスカレートさせる
この行動パターンが長期間続き、職業・家庭・社会生活に重大な支障をもたらす場合、「ゲーム障害」と診断されます。
職務中にこの状態が現れることは、プロフェッショナルとしての機能不全を意味します。

■ スマホ依存・ゲーム障害の現状
スマホ依存の自覚(18歳~69歳)
調査主体 / 出典 | 調査対象 | 調査時期 | 自覚率 |
---|---|---|---|
MMD研究所 | 18~69歳男女 | 2024年8月 | 23.4% |
MMD研究所 | 18~69歳男女 | 2022年11月 | 20.9% |
ゲーム障害・ネット依存の有病率(疑い)
調査主体 / 出典 | 調査対象 | 調査時期 | 依存が疑われる人の割合 | ポイント |
---|---|---|---|---|
厚生労働省研究班(久里浜医療センター等) | 中高生全体 | 2017年 | 約93万人 | 中高生の約7人に1人がネット依存の疑い |
久里浜医療センター(ゲーム依存相談マニュアル) | 一般人口 | – | 約2% | 国際的診断基準(ICD-11)に基づく一般人口の目安 |
長崎大学(大規模疫学調査) | 小・中・高校生 | コロナ禍 2021年9月 | 約7% | コロナ禍で利用時間が増加した時期 |
CESA(一般社団法人コンピュータエンターテインメント協会) | 高校生相当~59歳 | 2021–2022年 | 0.8%~1.6% | ICD-11に基づく全国調査結果 |
■ ゲーム障害が警備・警護業務にもたらす“致命的な影響”
警備・警護の現場では、数秒の判断ミスが人命や財産の損失に直結します。
ゲーム障害の主症状である 「注意力の低下」「睡眠不足」「衝動性の増大」 は、この職務の根幹を破壊します。
🚨 影響1:集中力と判断力の低下
- 監視業務の盲点化:ゲームやSNSのことが常に頭をよぎり、カメラ映像の変化や異音・異臭への反応が鈍くなる
- 緊急時の判断ミス:慢性的な睡眠不足により、異常検知・避難誘導・通報判断の遅れが発生
ゲーム特有の構造的リスク
- 動画視聴であれば、緊急対応時に一時停止し再開可能
- しかし、ゲームには一時停止ができないジャンルが多く存在
- リアルタイム性の高いゲームほど「途中で止められない設計」になっており、通知や無線が入ってもゲーム続行を優先してしまう心理的バイアスが働く
この「やめられない構造」と、勤務中に私用スマホを操作していることを自覚できない状態は、単なる怠慢ではなく、Security Awarenessの欠如によるリスクといえます。

■ 集中力の回復と“切り替え”の難しさ
犯罪学の分野で有名なUniversity of California, Irvineでの研究によると人間の脳は、集中していた対象を中断すると、次の対象に完全に注意を移すまでに平均20〜25分を要すると言われています。
この「切り替えコスト」は、ゲームのように強い没入を伴う活動ほど大きく、警備業務のように短時間で冷静な判断と正確な行動が求められる職種では特に問題となります。
- 「直前までゲームをしていた」
- 「休憩中にSNSを見ていた」
といった行動は、警戒の立ち上がりの遅れや注意散漫につながりやすく、現場でのリスクを高めます。
■ 職務別リスクの差
- オフィス業務(アドミン作業など)
勤務中にゲームや動画に没頭することは常識的に不適切。業務効率低下のリスクがある。 - 現場警備
巡回・監視業務中にゲームに集中すると、周囲が見えず、緊急対応が遅れる可能性がある。
これは直接的に人命や財産に関わるリスクとなるため、特に注意が必要です。
■ 警備員に求められる意識
スマートフォンを「使う」ことは問題ではありません。
重要なのは、「使われていないか」です。
- ツールを使いこなせる人は、必要に応じて距離を取れる
- 使われてしまう人は、注意力を奪われ、業務の質を低下させる
警備・警護のプロフェッショナルには、集中力の維持・即時対応力・自己制御力が求められます。
それが欠けると、どんな高性能なシステムや装備を持っていても、安全は守れません。
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