「Fraud」とは、不正や詐欺を意味する言葉で、金融不正や情報不正、経費水増しなど、多様な形態を持つ概念である。その中でも「Time Fraud」は、労働時間の記録や報告を意図的に歪める行為を指す。勤務時間を偽って報告したり、実際には働いていないのに勤務したように見せかけることが典型的な例である。
日本ではこの「Time Fraud」という言葉自体がまだ一般的ではなく、多くの企業や社員はその深刻さを十分に意識していない。しかし、ちりも積もれば山となるように、小さな不正も長期間にわたり積み重なれば、組織にとって大きな損失につながる。例えば、毎日5分の遅刻や早退をしている場合、それだけでも年間に換算すると約21時間40分もの勤務時間が失われる計算になる。こうした目に見えにくい積み重ねが、組織全体の生産性や信頼性に影響を与えるのである。特にセキュリティ業界のように、「信頼」こそが最大の資本であり、サービスの価値そのものである業種においては、Time Fraud の認識と対策を軽視することは許されない。

Time Fraud の典型例としては、打刻をせずに勤務したように見せかけたり、同僚に代理打刻してもらう行為、オフィスにいながら私的な用事に時間を費やす勤務中のサボり、在宅勤務中に勤務していないのに勤務していると報告する不正、さらには実際に残業していないのに残業申請を行う水増しなどがある。表面的には些細な行為に見えるかもしれないが、交代制の現場や継続的監視が前提の職務では、その数分や数十分が「無防備の空白」となり、侵入や内部不正、設備トラブルへの対応が遅れるリスクとなる。

Time Fraud が組織にもたらす影響は、単なる労務コストの増加や生産性の低下にとどまらない。恒常的な遅刻や勤務時間の偽装は、社員間の不公平感を生み、職場全体の士気を損なう。さらに、セキュリティ業務においては「いつでもそこにいる」「確実に対応する」という安心感が欠かせず、恒常的に遅刻や不正を行う人物は、いざという時に信用されないという致命的な弱点を抱えることになる。悪質な場合には懲戒解雇や詐欺罪として刑事責任を問われることすらあり得る。
こうしたリスクを防ぐには、単に注意喚起を行うだけでは不十分であり、仕組みと運用、そして文化の三層での対策が求められる。勤怠管理には生体認証や入退室ログ、PC操作ログとの突合を活用し、不正を物理的に抑止することが有効である。また、マネージャーやリーダーによる定期的かつランダムな監督、引継ぎ手順の徹底など、現場運用の工夫も欠かせない。さらに、職場文化として「時間を守ること=信頼を守ること」という意識を浸透させ、コンプライアンス教育や評価制度に反映させることで、長期的な再発防止につながる。
セキュリティ職に従事する者は、単なる労働者ではなく、信頼を担保する存在である。顧客や社会が期待するのは、施設や設備の安全を確実に守り続けることであり、その基盤となるのは時間を守るというごく基本的な規律である。日本人にとって時間を守ることは当たり前の規範に感じられるかもしれないが、国際的な職場では必ずしも同じ感覚が共有されていない場合もある。だからこそ、文化論ではなく職務要件として時間厳守を明示し、徹底することが不可欠である。恒常的に遅刻を繰り返す人物は、平時でも評価されず、有事にはなおさら任せられないと判断される。日常の小さな不正や怠慢こそが、非常時の信用を奪うのである。
Time Fraud は、派手な不正や大規模なインシデントのように目立つものではない。しかしその影響は時間をかけて確実に蓄積し、組織の財務、人材、そして信頼に大きな影響を与える。特にセキュリティ業務では、時間を守るという基本的な規律こそが、信頼を守るための最前線に位置する。私たちが守るべきものは施設や設備だけではなく、そこに寄せられる顧客や社会の信頼そのものである。この信頼を裏切らないために、Time Fraud を決して軽視してはならない。
要人警護の現場では、タイムカードが存在しないため一層の自己管理が求められる。勤務時間の厳守は通常の警備業務よりも厳しい場合もあり、時間ギリギリに来て仕事を開始するようではミスが生じるだけでなく、チーム全体の信用にも影響する。警護や警備、そして他の職種であっても、時間に対する厳格さは業務の質と信頼を守るうえで不可欠であり、特に警護を目指す者はその重要性を深く理解しておくべきである。

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