コムタイムとスタンバイ

国が変われば、文化も法律も異なるので、単純に比べることは出来ませんが、他国の制度を参考にしたり、思い切って導入したりすることで、向上が見込めるのならば試してみる価値はあると思います。今日は、私がアメリカで15年間働き、日本の雇用条件より優れているというか従業員のことをよく考えていると思った雇用条件を紹介します。法律を変えるのには、長い時間と莫大な労力を要しますが、会社単位であればすぐにでも改善が可能だと思えるものばかりですので、特に会社オーナー様に読んで頂けると幸いです。

SNSで議論されているのを良く見るのが、警備員の現場集合時間についてです。警備員に限らずどんな職種であっても社会人として遅刻は厳禁です。警備員は、勤務開始前に制服に着替え、装備を整えなければならず、それなりに時間がかかります。そのため、勤務開始30分前までには現場に到着するよう口うるさく指導している会社もあるようです。しかし、賃金が発生していない以上、このルールに一切強制力はありません。従業員からしてみれば、本来の開始時間に間に合っているにもかかわらず注意を受けたり遅刻のよう扱われたりすれば会社に対する不満が募ってしまいます。

私自身、遅刻して他の人に迷惑をかけるのは好きではありませんので、勤務開始の1時間前には職場につくようにしていました。しかし、これはあくまで自発的な行動で会社から言われたからではありません。

しかし、生真面目な日本人からすると考えられませんが、アメリカ人には準備時間も仕事のうちという考え、給与が発生しない時間帯に仕事は一切しないと完全に割り切った人も多くいます。つまり勤務開始時間が午前7時だとしたら、7時ギリギリに到着する人も少なくないということです。もちろん、これでは仕事にミスが出てしまう可能性があります。その解決策がコムタイムです。

(画像上)国連時代の私のロッカー

コムタイムとは、Compensatory Timeの略です。Compensatory Timeとは、日本語に訳すと「補償時間」です。前職の国連本部警備隊では、制服に着替えたり、装備を確認する時間として勤務開始と勤務終了後に15分ずつ、つまり1日30分のコムタイムが設けられています。コムタイムは、Compensatory Time Off (CTO)という休みとして利用が出来、休みとして利用しない場合には給与としてもらうことも出来ます。週5日間勤務の人ならば、毎月10時間のコムタイムを得ることが出来きます。つまり毎月約1日の休みもしくは1日余分に給与が貰える仕組みです。こうすることで職員は不満なく、最低でも勤務開始15分前には職場に来て着替えを済ませ装備を確認し、勤務開始時間ピッタリに仕事を気持ちよく始めることが出来ます。会社には少々負担になりますが、長い目でみれば従業員が開始直前に装備の点検などもままならない状態で慌てて現場にやってきて事故などを起こす心配をするより良いのではないでしょうか。従業員の意識も確実に高まりますし、勤務開始時間に余裕をもって仕事を始められる従業員がいる警備会社としてきっとその評判は上がると思います。

(画像引用元)United Nations Human Resource Portal

他にももう1点、それは警備員の休憩についてです。警備業に限らず、日本では休憩時間が勤務時間に含まれず、給与が発生しない契約が多くなっています。しかし、これは警備員にとって良くない雇用契約だと私は思っています。警備員の場合、休憩時間であっても無線を聞いており、何か緊急事態が起きた場合にはバックアップへと走ります。つまり、正確には「休憩時間」ではなく、「待機時間(スタンバイ)」だからです。給与体系が実働時間から拘束時間と変われば、警備員の意識も変わるはずですし、休みを取っている時間帯でも現場で何か起こればすぐにかけつけてくるようになるはずです。

従業員にとってより良い給与体系が構築できれば、若くて体力があり、将来性もある志願者が自ずと増え、それが結果的に警備業界の質の向上にもつながると思っています。残念ながら、国外での経験、経歴は認めない日本の警備業界では、警備員指導教育責任者の資格が取れず、私自らが警備会社を経営することは出来ないので、私の考えに共感しこうした雇用体系を導入する警備会社がいつかどこかに現れてくれれば嬉しく思います。


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