ボディガードの合言葉と合図

ボディガードとクライアントの間には、色々な合言葉や合図の取り決めがあります。例えば、外から開けられないSafe Havenの中に身をひそめるクライアント、頑丈な壁に護られたSafe Havenの中からでは外で何が起きているのか分かりません。では、いつSafe Havenのドアを開けるのか。それは外から警護官が秘密の合言葉を送った時です。このような際の合言葉は、警護官たちが敵につかまり、拷問により合言葉を吐かされることも踏まえ少し捻った合言葉にします。

例えば、外の警護官が中のクライアントに対してドアを開けるように促した際に、クライアントは「鳥!」と言うとします。それに対して警護官が「巣の中」と答えれば問題なし、しかし何か異常がありドアを開けてはいけない場合には「飛んだ!」と答えるようにしておくなどです。

他にも、脅威ではないがクライアントが望まない相手が近寄ってきた際や、話を切り上げたい際の合図を決めている場合も多くあります。どんな合図でも良いのですが、クライアントが無意識によくしてしまう行動は避ける必要がありますし、警護官がどの位置にいてもすぐに見つけられるものであることが好ましいと言えます。例えば、左手で右耳を2度触るなどがそうです。

なお、私の前職である国連本部警護隊もそうだったのですが、ボディガードがクライアントの身体に触れるのは緊急の場合で、その際には問答無用でボディガードの言うことに従うという取り決めをしている団体や組織があります。この場合、海外へ行く際には少々注意をする必要があります。

国が変われば、文化が変わります。男女でも異なりますが、国や文化によってもパーソナルスペーススキンシップも異なります。以前、国連事務総長夫人の警護官としてキューバに行った際、現地でサポートとして付いてくれた女性警察官の行動によって、私は文化の違いが警護にも支障をきたすことがあることを学びました。女性警察官は、ラテン系の明るいノリでスキンシップも多めだったので、彼女なりに気を使い夫人が階段などで倒れたりしないようにと毎回背中など触れていました。ところが、警護官が身体に触れるのは緊急時のみという理解だった夫人はこの行動にすっかり戸惑ってしまったのです。そのことに私もすぐ気付き、女性警察官に触れなくても階段などではすぐ後ろに立っていれば倒れてもサポート出来るし、私もついているからそこまでしなくてよいと伝えました。事前の打ち合わせでこのことについても話し合っていれば、夫人の前でこのようなことを伝える必要はなかったので、この女性警察官には悪いことをしたと反省しました。そしてそれからは行く国々の文化を事前に調べ、何か警護上支障をきたす恐れがあることに関しては事前の打ち合わせでしっかり互いに理解し合う努力をして、警護中に嫌な気分にならないよう努めるようになりました。

(写真上)白と黒のスーツがVIP、その横でVIPに手を伸ばしているのがキューバの女性警察官。

COVID-19の影響で一時的に、海外との交わりが激減していますが、完全に終息すれば、またグローバル化の波は勢いを増すことが想像できます。そうなれば、同じ国籍のクライアントを全員が同じ国籍のチームで警護するとは限りません。文化の違いが原因でせっかく決めた合言葉や合図が機能しないという状況に陥らないためにも、ボディガードは色々な国の文化を学んでおくことが大切なのです。


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