ボディガードの車選び

日本の民間警護で、車の運転までするところは少ないようです。そのため、ほとんどのボディガードが警護車両について考えたことがないのでしょうか。しかし、クライアントである警護対象者(以下、「V」という)が、車選びでアドバイスを求めてきた際に警護の視点でプロらしいアドバイスが出来ないのでは困ってしまいます。

アーマード vs. ソフトスキン

アーマードカー(防弾車)が必要なのか、ソフトスキンカー(非防弾車、つまり通常の車)で良いのかは、Treat Analysis and Risk Assessment(脅威分析とリスクアセスメント)(以下、「TARA」という)によるところが大きいです。

「防弾車」には、その防弾のレベル分けがしっかりされています。防弾車の多くは、ヨーロッパ(特にドイツ)で作られているのでアメリカや日本ではヨーロッパのスタンダードが使われています。以前は、Ballistic RateのBR(B+数字で呼ぶことが多いです)が使われていましたが、最近は新しいスタンダードのVPAM(Vereinigung der Prüfstellen für angriffshemmende Materialien und Konstruktionen [Association of Centers for Certification of Bullet-resistant Materials and Constructions]) を使う人も多くなっています。ちなみに日本では、以前のBRを使う人が多い傾向にあります。BRには、1から7まであり、数字が多きくなるにつれ、防弾レベルが高いものになります。つまりB7が、最強の防弾車となります。ここだけの話ですが国連で警護をしていた際に、本拠地ニューヨークで使っていた防弾車はB7でした。確か、総理大臣が乗るセンチュリーもB7だったはずです。外務省が、外国から訪れる要人の為に使用する防弾車もB7の時が多いようです。民間では、あまり使うことがない防弾車ですが、ボディガードとしては防弾車にはレベルがあり、B(1~7)かVPAM(1~14)の2つのスタンダードが使われていることぐらいは覚えておいたほうのが良いと思います。

引用元 AURUM Security (http://www.aurum-security.de )

防弾車は、銃弾を防ぐために鉄板を骨組みに足しているので、その総重量は普通車に比べてかなり重くなっています。そのため、ブレーキをかけてから止まるまでの距離も普通車に比べて長いですし、特別な運転技術が必要になります。防弾車を利用するとなったら、きちんと訓練を受けた運転手が必要になることも忘れてはいけません。

防弾車のドア

日本の民間警護では、おそらくソフトスキンカーを使用することがほとんどだと思います。金銭的に防弾車を使うことは出来ないが、Vに対する脅威レベルが高い場合などには、防弾チョッキをVの乗る席のドアに張り付けたり、助手席に防弾チョッキを着せたりなど臨時的な対応が防弾車を借りるより比較的安く出来ることも知っておく必要があります。

MT vs. AT          

マニュアル車(以下、「MT車」にいう)の最大の特長は、なんと言ってもレスポンスの良さでしょう。運転手の腕にもよりますが、運転手が思い描くとおりの動作をしてくれるというのが利点です。しかし、最近はテクノロジーの進歩でオートマティック車(以下、「AT車」という)の操作性も以前に比べて格段に上がりました。これにより、ボディガード業界でもAT車派が多くなりました。まだまだMT車が根強い人気を誇るヨーロッパでも、警護車に関してはAT車が選ばれることが多くなっています。操作性に差がなくなれば、AT車はボディガードにとってMTより多くのメリットがあります。まずはMT車より手足に自由があります。MT車は、ギアチェンジの度に足はクラッチに、そして手はシフトノブにと忙しいです。

運転手が何らかの事態で運転不能になった際に、ボディガードがどう対応するか考えてみてください。ただ運転手が病気などで、特に危険がない場合にはその場で車を停車させれば済みます。しかし、Vに何らかの危険がある場合には、停車はせずに運転し続けないといけません。助手席に乗るボディガードは、運転席に足を入れアクセルを踏み、安全が確認できるまで運転し続けます。AT車なら、これはそう難しくありません。しかし、MT車の場合、片足では適切なギアチェンジが出来ず、最悪な場合にはエンストなんてことも起こりえます。最近は、AT限定の免許しか持っていないという人も多いので、万が一の際により多くの人が運転出来るAT車のが警護車両に適しています。

弊社のCCPS/CCPSWでは、運転手が運転が出来なくなった際の対処法も教えていますので、興味がある方はぜひそちらを取ってみてください。

セダン vs. SUV

セダン車にするのか、スペース的にもっと余裕があるSUVにするかは、Vの好みによるところが大きいです。しかし、環境に適した車を選ぶ必要があることも忘れてはなりません。国連時代の本拠地ニューヨークは、冬になると雪がひざ丈まで積もることもしばしばあります。なので、雪が降った時の為にSUVの防弾車も用意していました。雪といえば、日本も北海道や東北などに行くと冬に雪が降ります。このような土地で警護をすることになったら、雪の中での運転の仕方を知っておく必要があります。SUVのような四輪駆動の車でも運転の仕方をしらなければ事故になります。

B7防弾SUV(ベンツ)

アメリカでVが乗る車を護る警護車といえばシボレーサバーバンが定番ですが、これは広いアメリカの道路でこそ本領が発揮できますが、細い路地が多い日本では逆に不利になることもあります。その証拠に総理大臣の車列にはサバーバンのような大きなSUVは入っていません。

黒 vs. 白

車体の色は、黒が他の色よりも断然多いです。これは、黒は他の色よりも格式が高く、どんなシチュエーションにも合うからだと言われています。しかし、絶対に黒でないとダメだというルールはありません。常夏の国では、黒だとすぐに暑くなってしまうのであえて白の車を警護車両として使うところもあります。ただ、必要以上に人の目を引く奇抜な色は避けた方が良いでしょう。

シンガポールのような暑い国では、白の車が使われることもあるようです。

ASV

ここ数年で、Advanced Safety Vehicle (以下、「ASV」という)(先進安全自動車)が、かなり一般に普及しました。ASVは、聞いたことがなくてもスバルのアイサイトやダイハツのスマートアシストなんかは聞いたことがあると思います。私もアメリカに住んでいたころは、アイサイト搭載のインプレッサスポーツに乗ってました。ASVは、とても便利な機能で事故防止にかなり役立っています。しかし、この一般的にはとても便利なASVが、ボディガードにとっては邪魔になる可能性があります。車列は組まずに1台のみなら特に問題はありませんが、車列を組むと(1)衝突被害軽減ブレーキや(2)車線逸脱防止支援システムの2つが特に厄介なんです。警護車列は通常、Vが乗る車の後ろを走る警護車がコントロールします。たとえば、2車線ある道路で車線変更をする際は、まず警護車が2車線の真ん中あたりを走り後方の車をブロックしてから、Vの車は車線変更をします。東京やニューヨークなど車が多い都市では、車列の間に車が入らないように車間距離を狭めて走っています。その為、この車線変更の際に、ASV機能が作動して車線変更がうまく出来ないという問題が発生したりします。車列を組む際には、ASVを切るか、車列の間に車が入ってくるリスク覚悟で車間距離を広める必要があります。ちなみに、国連ではASV機能を全部切っていました。

上記の他にも、パンクをしてもしばらく走ることが出来るランフラットタイヤをはかせるべきなのか、フロントガラスに支障があり見えなくなっても運転し続けることが出来るように特別なカメラ(*以前、動画を撮ったものがあるのでまたの機会に紹介したいと思っています)を搭載するべきなのかとかいろいろ判断基準はあります。ボディガードの車選びも正解は決まっていません。ボディガードは、その都度、経験や知識をフル活用して選んだものこそが正解です。しかし、いつもボディガードの希望が完全に通るわけではありません。Vの希望や金銭的な面、そして環境などいろいろな要素を考慮したうえで最も適切な車を選ぶことが重要です。


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