現役引退後のキャリアパス

本ブログで度々警護の道に進むのであれば、国内にとどまらずに海外に目を向ける重要性を書いてきました。そこで今回は、海外で警護官を務め終えた後のキャリアパスはどのようなものか、著者の実体験を元に日本に帰国した場合のキャリアパスついて紹介したいと思います。

著者が警護の経験を積んだのは、ニューヨークの国連本部です。その国連本部の警護隊には皆が望むようなキャリアパスは残念ながら用意されていませんでした。いくつもの選抜試験をクリアし、ようやく国連事務総長の専属警護官にまでなっても、警護官引退後の道は主に2つ。昇進によりユニフォーム・ディビジョンのスーパーバイザーとしてオフィス勤務になるか、昇進が果たせなかった場合は以前所属していた部署に戻されるかです。事務総長やその他上層部との関係が他より強く、信頼もある為、国連本部警備隊の中では警護官は昇進がしやすいと言われています。しかし、必ずしも約束されてものではありません。平等を謳う国連ですが、本部警備隊の昇進に関しては残念ながら未だに性別、人種、出身国がかなり強く反映されます。国連職員の中では有名な話ですが、男性は女性よりも、そしてアジア人は欧米人やアフリカ人に比べて、昇進が格段に厳しいものとなっています。

著者は、高齢の父の健康上の問題から、警護の任が解かれる前に自身で国連本部警備隊からの退職と日本への帰国を決めました。ただ、そのまま残っていても、きっとアジア人男性という理由から昇進は望めなかったでしょう。つまり国連警備隊の中で最難関と言われているCPOC/RCPOCに合格し、チームリーダーまで勤めても、いずれは制服勤務に戻り、国連本部警備隊入職直後にしていたアクセスコントロールやビジターのスクリーニング等の仕事をすることになります。

国連警備

こうした状況から、著者以外も色々な理由で国連本部警備隊に見切りをつけ、外でのキャリアアップを求める者は多くいました。海外でしっかりとした職歴があれば、それだけで日本帰国後のキャリアで優遇されることが予想できます。しかし、それだけで満足をしていてはいけません。キャリアップの道を求める際に職歴以外に必要な物として先ず頭に浮かぶのが学歴です。警備や警護は学歴でするものではありません。しかし、就職の際、学歴がなければ書類選考の時点で声がかかりませんし、学位を得ることは自身の知識を増やすだけでなく、それなりの努力をしてきたことの証明にもなります。国連本部警備隊では、在職中に学士修士を取得する人も多くいます。中には博士まで取得する人までいます。仕事が忙しくて学校に通っている暇がないという方には、American Military Universityがオススメです。

JJC Memorial

国連時代、著者が仲良くしていた日本人とコロンビア人のハーフの元同僚も著者と同様にアジア系男性という理由から同期に比べ昇進が遅く、先が見えないという理由から在職中に学位や資格を取得した後、国連本部警備隊を退職し、現在はニューヨークタイムズ社セキュリティマネージャーに就いています。彼のようにビザに問題がなければ、そのままアメリカでのキャリアアップももちろん選択肢に入れることが出来ます。

日本に帰国後のキャリアパスにはいくつかの選択肢あります。まずは著者も挑戦している起業です。海外で得たキャリアを後進に指導することだったり、海外とのネットワークを利用したビジネス展開だったり、その方法は様々です。ただ、5年以内に8割が消えていくといわれている起業より安定を求めるのであれば、日本で再就職するという選択肢もあります。

海外での職務経験があると、それだけで日本語以外の言語が出来る証明にもなり、TOEICなどの試験をわざわざ受けて証明する手間が省けます。株式会社キャリアインデックスによれば、年収500万円未満の人で英語力を有する人が22.4%しかないのに対して年収700万円以上の人で英語力を有する人は48.7%とほぼ倍です。つまり英語をはじめとした外国語がビジネスレベルで扱える人は、それだけで他に差をつけることが出来ます。因みに日本の平均年収は、445万円と先進国といわれている他国に比べて極端に低くなっています。

日本の警備業界はスペシャリストプロフェッショナルと呼ばれる人材が極端に不足しています。そんな業界で専門知識や技術にプラスして英語が話せるとなると、それだけで大変貴重な存在なため、色々と声をかけてもらえます。特に海外にある本社と直に連絡を取る為に英語が必須の外資系企業から声がかかります。

ただ、どれだけ素晴らしい経歴や技術を持っていても、自身の存在を他に知ってもらえなければいつまで経っても声がかかることはありません。何から始めて良いか分からない人は、先ずはLinkedinにアカウントを設け、プロフィールを充実させましょう。海外に比べて日本ではまだ利用者が少ないLinkedinですが、外資や日系グローバル企業では人材発掘に利用している会社がかなりあります。実際に著者も知人がLinkedinで仕事を見つけたと聞き、すぐにプロフィールを充実させたところ、約3カ月で誰もが知るような大手グローバル会社を含む12社から声がかかりました。現在は、声をかけて頂いた会社の中で一番著者を評価してくれた会社で平日はAsset Protection Managerとして仕事をさせて頂いています。「Asset」という単語を辞書で調べると「資産」と訳されます。そのためAsset Protectionを金融関連の仕事だと勘違いされる方が時々いますが、Assetはお金や商品だけでなく人材も含まれますので、警備や警護のキャリアを持つ人材が求めれる仕事です。他にも警備や警護が活かせるキャリアには、Security DirectorSecurity ManagerCrisis Management Specialistだけなく警察との連絡役を担うLaw Enforcement Emergency Response SpecialistやLoss Prevention Managerなどの仕事もあります。これはあくまで一例ですので、調べれば他にもキャリアを活かせる仕事は沢山あると思います。

自身を売り込む際に、学位の次に大事なのが資格です。その人の能力は実際一緒に働いてみないと計れない部分があります。資格は、その不透明の部分を形式化出来る点で就職の際に役立ちます。どのような資格を取るべきなのか。お金が全てではありませんが、キャリアアップとして次の仕事を選ぶ際にキーポイントとなるのは自身への評価、つまり対価(給料)となります。残念ながら著者の経験上、日本の会社で警備職への支払いが良い会社はあまり聞いたことがありません。そうなると必然的に外資が対象となります。その為、日本国内の資格よりも外国の資格を持っておくと良いでしょう。海外にどういった資格があるのか分からないと言う方は先ず、前述のLinkedin等で自身が望むキャリアにいる人をフォローし、プロフィールを覗いてみましょう。そしてそこに書かれている資格の受験資格等を満たしているのであれば、同じ資格に挑戦してみるところから始めるのが一番良いかと思います。著者は現在も興味を持った人のプロフィールを覗いては、面白そうな資格や訓練があれば挑戦しています。著者が持っていると他に差をつけるのに役立つと思う資格は2つです。一つ目は、災害大国の日本では役立つことが確実なCBCIです。CBCIは、Certification of the Business Continuity Instituteの略でイギリスのBusiness Continuity Institute (BCI)が主催する事業継続計画の資格です。もう一つは、キャリアアップするためには経営に携わる必要があるので、そこで活きるPMPです。PMPは、Project Management Professionalの略です。どちらも簡単な資格ではありませんし、取得にはそれなりの時間と費用がかかりますが、取得できれば大きな武器になることに間違いありません。著者も取得に向け勉強中です。

著者が既に取得済みでオススメな資格は、やはりASIS InternationalのCertified Protection Professional (CPP)です。日本国内で、こちらの資格を保有する人は10人にも満たないようなので、取得できればそれだけで他との差別化に大きく貢献してくれるでしょう。

海外に出ることで日本を外から客観的に見ることができるようになります。残念ながら、前述の平均年収からも分かるように日本には80年代後期のような競争力はありません。今後は衰退していく一方でしょう。こういった状況を考えると、海外で職を得ることが出来たのなら、そのまま海外に骨を埋めることこそが正解なのかもしれません。しかし、著者のように日本の現状を理解しつつも年老いていく両親を見て見ぬふりが出来ず帰国を決める人もいると思います。日本では警備員というと3K低所得のイメージがつきものです。しかし、著者の実体験からのアドバイスを参考して頂ければ、日本の給与所得者のうち全体で5%しかいないとされる年収1000万円以上も決して無理な数字ではありません。


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