著者は残念ながら日本では警備員として働いたことがありません。そのため、日本で警備員になる為に必要な新任教育すら受けたことがありませんし、新任教育でどのようなことが指導されているのかも知りません。ただ日本帰国後に管理者として数社の警備員をマネージメントした経験があり、多少なりとも日本の警備業の事情については知っているつもりです。新任教育といえば、アメリカで警備員になるにあたり最初に習うことがメモブックの取り方なのですが、日本では大手の警備会社であっても、警備日誌の付け方すら教えていない場合があることを知った時にはさすがにかなり驚きました。以下は日本の警備員の働き方、考え方に対する苦言になってしまうのですが、これは警備員を教育する責任を怠っている警備会社の経営陣の責任でもあります。
日本でもアメリカでも警備員は、Blue-Collar Worker、つまり肉体労働者の代表格です。残念ながらアメリカでも日本でも「Blue-Collar Worker」という言葉に「低学歴でも出来る仕事」、「低賃金の仕事」、「3K」といった下賤なイメージを持つ人も少なくありませんし、実際に警備員を蔑みの目で見る者もいます。先日も4号を提供する警備会社を始めたいと言う方から相談があったのですが、その相談者は、自身に警備の経験がないうえ、日雇い労働者や前科がある者を安く雇い入れるという警備や警護を舐めているとしか言いようがない考えを持っていました。
個人差もあるので必ずしもそうだとは言い切ることは出来ませんが、警備員自身もアメリカと日本では少々意識が異なると著者は感じています。アメリカの警備員は、警備員になる理由は異なっても好んで警備員という仕事を選択している人が多く、そして体力や腕っぷしに自信があるものが多い傾向にあります。そうした背景とアメリカの文化も大きく影響し、警備員も何が自分の仕事であるか、きちんと理解している人が日本よりも多いような印象を受けます。言い換えれば、自身の仕事ではないことは一切しません。実は、これがアメリカ流のリスク・マネージメントでもあります。
日本では、良かれと思って本来の仕事でないことまで受けてしまっている警護員が多くいます。何らかの問題が生じるまでは、周りも色々と手伝ってくれる警備員は「気が利く警備員」などとおだて、警備の事を知らぬ者は「素晴らしい警備員だ」と評価します。ただ何か問題が生じると、今までの誉め言葉や評価はどこへやら、途端に手のひら返しで「なんで警備員が…」と弾劾します。
警備員が暇そう、何もしていないと見えるのは、きちんと警備が出来ているということで警備的にはとても良い状況です。しかし、そんなことは知らぬ者は、どうせ暇なのだからこちらの仕事も手伝ってくれれば良いと思い、実際に警備員にそう促すものもいます。一度でも警備員が「はい」と言えば、大抵の場合それはその後、警備員の仕事になってしまいます。派遣先の会社の社員から何かを頼まれたら、断りにくいと思う警備員の気持ちは分かります。しかし、それでも本来の仕事を全うするためには断る勇気を持つことも大切なのです。他の事に意識が向いていれば、いざ何かが起き、すぐに何らかのアクションをしなければならない状況で遅れを生じさせます。警備員は、業務中何らかの異常があった際に、可能な限り早くレスポンスが出来るよう、常に臨戦態勢、神経を集中しており、何もしていないことは本来ないはずです。警備の仕事にプライドを持ち、警備の仕事の本質が分かっているからこそ、本来の仕事以外のこと、つまり契約にない仕事はしないのです。これが警備のプロです。
警備員Iは、派遣先の社員からなかなかの評価を得ていました。しかし、その評価は、社員が面倒だからといって本来は社員がするべき仕事をIは嫌な顔をせず、積極的に受けていたからでした。社員宛てに届いた荷物は、社員が自身で受け取るルールになっていたにも関わらず、Iは社員の便宜を図り、代わりに受け取っていたのですが、ある時荷物の紛失事件が起きてしまいました。そして誰が荷物を受け取ったか調べると、宅配業者の受領書にIの署名があったのです。Iは、荷物を代わりに受け取り、その後当該の社員に渡したということでしたが、結局荷物は見つからず、Iは“勝手”に荷物を受け取った「出過ぎた真似をした警備員」というレッテルを貼られました。
同様に良かれと思ってした事でも、そのことで警備員自身がケガなどをしてしまった場合、派遣先の会社によっては頼んでもいないことを警備員が勝手にした結果、つまり自己責任だと管理責任などを認めないところもあると聞きます。前述の自社の警備員にしっかりとした教育を施すことを怠る警備会社にとって警備員は単なる駒で、その駒の為に警備会社が顧客である派遣先の会社に責任追及をすることは期待できません。
こうしたことから、実は著者が国連時代の先輩から言われた「CYA (Cover Your Ass)」の受け売りなんですが、自身の下で働く警備員に対しては、「自分の身は自分でしか守れない」と耳にタコが出来るほど言い聞かせています。警備員が自身の身を守る為には、契約内容をしっかりと理解し、自身の仕事に専念すること、つまり警備員は警備員の仕事に専念することです。警備業に従事する者として、事が起きる度に警備業従事者がWeakest Linkとして責任を押し付けられる状況を打開したいと思っています。その為にはまず警備会社が、そして警備員自身がプロとしての自覚を持たなければなりません。
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