ボディガードの仕事は、アドバンス(先着警護、先遣隊)やPPOのようにクライアントとともに行動しクライアントを危険から護るだけではありません。クライアント宛に自宅やオフィスに届いた手紙や荷物をチェックすることもボディガードの仕事です。アメリカでは、1978年から1995年にかけて全米各地で郵便爆弾などを用いて3人を死亡させ、23人に重軽傷を与え終身刑となったユナボマーことセオドア・カジンスキーの事件をきっかけに警察機関が市民に対しても怪しい郵便物を受け取った際は開封しないようにと注意勧告するようになりました。日本でも郵便爆弾はこれまで何度か起きたことがあり、まだ記憶に新しいところだと1994年の日本テレビ郵便爆弾事件(2009年に時効成立)や翌年1995年のオウム真理教による東京都庁小包爆弾事件の2件があります。残念ながら、日本語で参考になる資料は見つけることが出来なかったのですが、英語であれば「Suspicious Package」などのキーワード検索をすると色々な資料が出てきますので、興味がある方はぜひ調べてみてください。
手紙や小包が届いたら、ボディガードはまずは以下のことを確認します。
- 手紙/小包の差出人名と住所。
差出人の名前や住所が記載されていない手紙や小包は注意が必要です。他にも、著名人などの名前を使った偽名の疑いがある手紙や小包、クライアントとは全く関わりがないような外国や地域から送られた手紙や小包も注意が必要となります。
- 過剰な金額や枚数の切手が添付されていないか。
犯罪者は足がつかないように出来るだけ人との接触を避ける傾向にあります。そのため、正規の送料を調べずに届くと思われる十分な切手などを貼りつけて送る場合があります。
- 間違った宛名、役職のみでクライアントの名前が明記されていない荷物ではないか
国連事務総長宛の手紙や小包は、毎日すごい数届きます。宛名に国連事務総長という役職のみで、氏名が書かれていない手紙や小包の差出人の約9割は、事務総長と関係がない人からものです。良く知らない相手でも取引先相手の名前は、間違いがあれば失礼ですし、気をつかうものです。よく知る相手の名前も普通は間違えません。間違った宛名や役職しか書いてない手紙や小包は、注意が必要です。
- ワイヤーや銀箔が出ていないか。
爆弾に使われるワイヤーや銀箔などが飛び出してるなんて、よっぽど間抜けな犯罪者ではない限り起こりませんし、悪戯の可能性が高いのですが、そういった荷物が届いた場合はすぐに最寄りの警察署に連絡を取るようにします。
- オイルステイン、変色、異臭がないか。
郵便爆弾でよく使われるC4などのプラスチック爆弾には、油状物質が混合されているのでプラスチック爆弾を扱った手でそのまま小包を作った場合、脂染みが出来たりします。また脂により紙が変色する場合もあります。私も本物のにおいを嗅いだことはありませんが、プラスチック爆弾は、アーモンド臭がするようなので、そのような臭いが感じ取れば場合には注意が必要です。
- 重量
小型の小包なのに重い、もしくは大きな小包なのに軽すぎる場合にも注意が必要です。
- 内容物を守る為の過剰な保護されていないか。
爆破物の場合、郵送中などターゲットに届く前に爆発しないよう、バイオテロであれば液体やパウダーが洩れてしまわぬように硬い容器に入ってる、あるいはテープが何重にも巻かれ厳重に保護してあるものにも注意が必要です。
前職、国連本部の警護チームでは、上記のことを確認後にX線で再度検査して、異常がなければ検査済みの印を押してからクライアントに渡していました。ミスや手違いなどが起きることは許されませんが、万が一のことを考えクライアントには警護チームの名前と検査時間が入った特別な検査済みの印が押されていない手紙や小包は絶対に開けないように伝えてありました。
クライアントの意向もありますが、セキュリティ的にはクライアントに意図を説明してクライアントやクライアントの家族宛てに届いた手紙や荷物は一度ボディガードが受け取り、安全を確認したもののみを渡すようにすることが理想です。国連のようにX線が使えるとは限りません。X線が使えない状況では、特に脅威レベルが高いクライアントの場合にはクライアントに手渡す前に封を開けて中身を直接確認してから手渡すという方法もありますが、もしこのような手段を取る場合には事前にクライアントからの許可が必要となります。
もし怪しい手紙や小包が届いた場合には、開封はせずに最寄りの警察署に連絡を取るようにしてください。万が一開けてしまった場合には、手紙や荷物はそのままにして、すぐに内容物で汚れてしまった服などは脱ぎビニール袋などにまとめて入れ、袋の口をテープなどで閉めます。これは郵便物によるテロといっても、爆弾だけではなく炭疽菌、天然痘、ペスト、ポツリヌス症などに代表される生物兵器テロも考えられるためです。他にも部屋に人がいる場合には、すぐに退室させ、その部屋には誰も入れないようにします。液体やオイルが付いてしまった人は、すぐに手や体を洗い流すなどの対応も必要になります。検査室が建物の一角にある場合には、建物全体の警備責任者に事態を伝え、必要であれば館内の人全てを避難させるなども必要となる可能性もあります。不用意に開封した手紙や小包の中に、爆弾や不審な液体や粉末を見つけた場合には、すぐに専門家のアドバイスを求める必要があります。
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