Good Samaritan Law

※私は救命のスペシャリストでありません。今回のブログは、あくまで個人的な見解です。

前日の普通救命講習の追記なのですが、日本とアメリカの救命には、前日書いた他にもう1つ大きな違いがあります。それは、善意で応急手当をした人間を守る法の在り方です。

アメリカにはGood Samaritan Lawというとても有名な法律があります。私が救急救命士(EMT-B)の資格を取得したニューヨーク州では、1984年に「Good Samaritan Law」が制定されました。以下は、ニューヨーク州公衆衛生法のGood Samaritan Lawについてのセクションの一部を抜粋したものです。

“Any person who voluntarily and without expectation of monetary compensation renders first aid or emergency treatment at the scene of an accident or other emergency outside a hospital, doctor’s office or any other place having proper and necessary medical equipment, to a person who is unconscious, ill, or injured, shall not be liable for damages for injuries alleged to have been sustained by such person or for damages for the death of such person alleged to have occurred by reason of an act or omission in the rendering of such emergency treatment unless it is established that such injuries were or such death was caused by gross negligence on the part of such person. (New York State Public Health Law Section 3000-a)”

要約すると、「金銭目的ではなく、あくまでボランティアで病人やケガをした人に対して応急手当をした場合、結果的に助けられなかった場合でも責任を問われない」となります。胸骨圧迫の際に肋骨が折れてしまうことはよくあることなのですが、それが救命の際に起きてしまったことなら罪に問われることはありません。肋骨を折ってしまっても、救助者の命が助かれば感謝をされることがあっても、訴えられることは少ないと思います。しかし、命が助からなかった場合、遺族は故人の突然の死を受けれることが難しく、誰かに責任を押し付けることで心の傷をやわらげようとする人たちもいます。こうした際に、きちんと法律でファーストエイドプロバイダーが守られていることはとても重要です。この法律があることにより、ファーストエイドプロバイダーはあとで訴訟になることを心配せずに救命活動をすることが出来ます。

ただし、善意で人を助ける行為であれば、何をしても良いというわけではありません。同じ公衆衛生法にAED Lawのセクションがあります。以下は、AED Lawの条文を抜粋したものです。

“No person may operate an automated external defibrillator unless the person has successfully completed a training course in the operation of an automated external defibrillator approved by a nationally recognized organization or the state emergency medical services council. However, this section shall not prohibit operation of an automated external defibrillator, (1) by a health care practitioner licensed or certified under title VIII of the education law or a person certified under this article acting within his or her lawful scope of practice or (2) by a person acting pursuant to a lawful prescription; or (3) by a person who operates the automated external defibrillator other than as part of or incidental to his or her employment or regular duties, who is acting in good faith, with reasonable care, and without expectation of monetary compensation, to provide first aid that includes operation of an automated external defibrillator; nor shall this section limit any good Samaritan protections provided in section three thousand-a of this article.”

要約すると、「AEDを使用するのは、いくつかの例外を除いてはきちんとした訓練を受けた人に限る」ということです。AEDは、電源オンにすると流れてくる音声ガイダンスに従うことで誰にでも簡単に使用が出来るとても便利な道具です。しかし、緊急時は誰でもパニックになりがちです。その時にそれまで一度もAEDの訓練を受けていない人だと音声ガンダンスがあるとはいえ正確に使用できないことも考えられます。AEDの訓練を受けていない人しか周りにいない場合には、胸骨圧迫と人工呼吸による心肺蘇生をしながら、救急隊の到着を待つことになります。ただ日本もアメリカもAEDが設置されているような場所では、従業員に普通救命や上級救命の受講を義務付けているところも多く、AEDの訓練を受けた人を見つけることはそれ程難しいことではありません。AED LawのようなGood Samaritan Lawを制限する項目もあるので、気をつける必要はありますが、それでも基本的にはボランティアでの救命活動は法で守られていると考えても問題はないでしょう。

日本でも、Good Samaritan Lawを立法化すべきか否かという議論がなされているようですが、残念ながら2021年3月20日現在、まだ立法には至っておりません。しかしながら、日本にももちろん救命に関する法律がないわけではありません。刑法37条民法第698条が、日本でもし救命活動によるトラブルが生じた際は前述の2つの法律が適用されるかが議論になると思われます。(※他にもあれば、教えて頂けると幸いです)。

以下は、刑法37条1項(緊急避難)の条文です。

自己又は他人の生命、身体、自由又は財産に対する現在の危難を避けるため、やむを得ずにした行為は、これによって生じた害が避けようとした害の程度を超えなかった場合に限り、罰しない。ただし、その程度を超えた行為は、情状により、その刑を減軽し、又は免除することができる。

以下は、民法第698条(緊急事務管理)の条文です。

管理者は、本人の身体、名誉又は財産に対する急迫の危害を免れさせるために事務管理をしたときは、悪意又は重大な過失があるのでなければ、これによって生じた損害を賠償する責任を負わない。

上記の2つの条文を見ると、警報37条1項(緊急避難)も民法第698条(緊急事務管理)も刑法と民法なので、救命という言葉は出てきませんが、Good Samaritan Lawと似た意味合いを持つ法律であることは確かで、今の日本でもし善意の救命活動が原因でトラブルが起きた場合はこの2つ法律をうまく使い、身を守ることになると思います。

日本は、少子化や老老介護などが大きな問題となっていますし、救急車が受け入れ先の病院を見つけるのに手間取る現状から推測するに、今後、民間人による応急手当が今よりも必要となっていくでしょう。そう考えると、刑法や民法ではなく、Good Samaritan Lawのような法を公衆衛生法として制定されることが、民間人による応急手当をより発展させるのではないかと思います。


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