プロのボディガードは、射撃の腕や武道の腕前がすごいだけでは務まりません。クライアント、クライアントの家族、そしてチームメイトがケガや病気に襲われた際には適切な応急処置も求められます。アメリカでは、一般市民も救急救命士(EMT-BやParamedic)の資格取得が可能なので、以前もブログに書きましたが、私もニューヨーク州のEMT-Bを取得しました。
海外でも活躍するボディガードを目指す人たちには、同じように救急救命士の資格を取って欲しいのですが、残念ながら日本では救急救命士の資格を取るまでにはかなり長い時間を要すことと、消防官のステータスが求められるのでそのフィールドで働く気がない一般市民が取得するのは現実的ではありません。そうなると、日本で一般市民が取れる救命の資格には、普通救命、上級救命、日本赤十字社の救急法(基礎講習、救急員養成講習)が挙げられます。ちなみにこれらの資格は、海外だとFirst Responderと呼ばれる資格に当たります。
東京では普通救命講習を受講するのに1500円かかりますが、私が住む茨城県やお隣の千葉県では無料で受講出来ます。しかも、現在は感染症対策で人数制限が設けられており、少人数なので待ち時間も少なく効率よく学ぶことが可能です。
アメリカでとは言え救急救命士の資格まで取った私が、なぜ今さら普通救命講習を受けるのか疑問に思われる方もいるかもしれません。こちらも先日ブログに書きましたが、国が変われば、文化が変わります。もちろん法律も変わります。私がアメリカで取得した救急救命士の資格は既に有効期限が切れてしまっているのもありますが、たとえそれがまだ有効期限内であっても、資格自体は日本国内だとただ紙切れと同じです。こうした理由から日本でもこれから警護技術指導していくにあたり、私自身や生徒がケガや病気をしないとは限らないので、日本でもしっかり救命の資格を取っておこうと思った次第です。本来は、上級救命講習を希望していたのですが、COVID-19の影響で(2021年3月18日現在では)まだ再開のめどが立っていないということでしたので今回は普通救命講習を受けてみました。
普通救命講習を取ってみて思ったのは、基本はアメリカも日本も変わらないということです。ただいくつか文化面の違いなどで生じる違いがあったので、紹介したいと思います。
アメリカでは、レベルに関係なく、救命の講習を受けると最初に教えられ、講習期間を通して何度も何度も繰り返し反復学習で記憶に残るように徹底されることがあります。それはBSIとScene Safetyの2つです。Scene Safetyは、その名のとおり安全確認です。こちらはアメリカも日本も違いはありませんでした。しかし、もう1方のBSIに関しては扱われ方がかなり異なっていました。
BSIとは、Body Substance Isolationの頭文字を取った言葉で、簡単に言えばマスク、ゴーグル、グローブなどのPersonal Protection Equipment(PPE)を応急処置をする前に必ずつけ、感染症などから救命者自身の身を守れということです。COVID-19の影響で、日本でもPPEが常識となりつつあり、授業の中ではチラッと指導員からPPEについての指導もありましたが、テキストにはBSIに該当するような言葉が見られなかったので、COVID-19以前にもきちんとPPEの必要性が指導されていたかは少し疑問です。実際、私が帰国後、4カ月間だけ働いたホテルの部下は、全員、上級救命の資格を取得していましたが、残念ながらBSIの意識は皆無でした。プライベート時にPPEを持ち歩いている人はあまりいませんが、ボディガードは最低限のPPE、もしはその代用品を携帯するように心がける必要があります。
文化が異なれば、事故や病気の傾向も異なります。セントラルヒーティングの家が多く、そしてシャワーのみで湯船につかる習慣があまりないアメリカではお風呂での心肺停止の症例は多くありません。そのため、当然こういった場合の対処方法が紹介されることはありませんでした。日本は、お風呂での心肺停止による死亡事故が多く、実は私の叔父も風呂場での心肺停止で亡くなっています。今の日本は、少子化で老老介護がとても多くなっています。浴槽で心肺停止の家族を発見しても、救命者側が高齢者の場合には浴槽から患者を出すことは困難です。では、そういったときにはどうすれば良いのか。答えは、簡単で、浴槽の栓を抜き、水を抜くことです。無理して患者を浴槽から出す努力に時間を費やすよりは、出来るだけ早く心肺蘇生の対処をすることがキーだからです。言われてみれば、納得ですが、考えたこともなかったので、こうした事例を教えてもらっていない状態で、自分がこのような場面に遭遇したら、すぐにちゃんと水を抜くことが出来たかは疑問です。
そしてAEDの備品にも文化の違いを見つけました。海外では、AEDの備品としてT字剃刀が必ず入っています。これは体毛が濃い人が多い欧米では、AEDのパッドがしっかり付くよう使用前に体毛を剃る場合があるためです。資料を見つけることは出来なかったのですが、本日の講習の指導員の話では日本でも2015年以前はT字剃刀が欧米同様にAEDの備品として入っていたらしいのですが、日本人にはそこまで体毛の濃い人が多くないという理由から2015年のルール改正の際にT字剃刀は抜かれたそうです。その指導員の話では、もし体毛が濃い人に遭遇した場合には予備パッドを利用して脱毛すれば良いと教えてもらいましたが、AEDのパッドの粘着力で本当に毛を抜くことが出来るかは疑問です。ちなみに私が日本で4ヶ月間働いたホテルは外資系のホテルで、客層もコロナ前は外国人客が9割だったようなので、AEDにはしっかりT字剃刀が入っていました。日本であっても、外国人が多く集まるような場所で働かれている人は、AEDの備品としてT字剃刀を入れておくことをオススメします。
普通救命講習は、3時間と短いクラスなので、習うことも基礎のみとなります。しかし、それでも初めての人なら何か得るものはあると思います。上級救命講習が再開したら、上級救命講習も受講してみようと思っています。
役立ちリンク
カテゴリー
投稿一覧は、こちら