Patrick McNamara氏が著書「SENTINEL – Become the Agent in Charge of Your Own Protection Detail-」の中でアドバンス(先着警護、先遣隊)について、とても分かりやすくリスト化にしていたので、そのリストにそって紹介したいと思います。毎回書いていますが、このリストを全てしないといけないということでありませんし、これ以上のことをしてはいけないということでもありません。10人のクライアントがいれば、10パターンのアドバンスが存在します。クライアントのことをよく理解して、何が必要なのか見極めることがとても重要です。以下のリストは、その際の参考になればと思っております。
Meet the detail curbside on arrival and lead them though the site.
アドバンスは、クライアントが到着する場所で待ち、クライアントを必要な場所へと先導します。これは、基本中の基本ですので説明する必要もないかと思います。
Review files of other site surveys.
以前行ったことがある場所の場合には、その際のレポートも確認します。もしかしたら、その日現場の案内をしてくれる担当者はまだ新しく情報が十分でない可能性もあります。アドバンスに限らず、セキュリティは情報があればあるほど対策も出来、リスクの軽減が見込めます。
Arrange meetings with officials.
クライアントが会う予定の先方と事前に連絡を取っておくことは、クライアントさけでなく先方のメリットにもなります。
Know the geographical location and have the address of the site to be visited.
当然のことながら現地の住所を知らないと、バックアップ(警察や消防)に連絡をする際に戸惑い恥をかくことになります。正確な住所がないフィールドや、入口や出口が多い建物の際には座標コーディネートも使用していました。例えば私が4か月だけ務めたペニンシュラ東京の正面玄関であれば、N35°40’28.21” E139°45’36.80”といった感じです。
Plan the primary and secondary routes to and from the site (including an emergency departure).
何が起こるか分からないので、ルート(経路)は複数用意しておくものです。ちなみに私が以前と勤めていた国連では、プライマリー、セカンダリー、エマージェンシーの3ルートを最低でも準備しておくルールになっていました。ルート選び(トラベル・サーベイ)については、また違う機会にもう少し細かく紹介したいと思っています。
Be aware of travel time and distances to and from site.
クライアントの所在地からアドバンスが調査した現場までの距離や所要時間は必ず知っておくべきです。距離は変わりませんが、所要時間は曜日や時間帯によって異なります。出来ればアドバンスは同じ曜日、同じ時間帯に出来ることが理想ですが、通常そんな時間的余裕はありません。大体の所要時間を知っておくことで、クライアントが遅れないで済むギリギリの出発時間を計算することが出来ます。
Know the scheduled arrival and departure times of the principal (duration of stay).
クライアントの到着時間、出発時間、滞在時間も知っておく必要があります。
Know the address, routes, and telephone numbers of the nearest police and fire stations for use as a safe haven, and the nearest hospital in the event of a medical emergency.
緊急避難場所になりうる最寄りの警察署、消防署の場所(住所)、電話番号を知っておく必要があります。そしてクライアントが体調不良の際に行く最寄りの病院と、どの病院がどういった治療に対応が出来るかも確認します。もしクライアントがかなり珍しい血液型の場合には、その血液のストックがあるかも調べておく必要があります。病院選びは、病院までの距離も重要ですが、処置できるトラウマレベル等も考慮する必要があります。
Be aware of other elements that could interfere with the planned route (i.e., rush hour traffic, parades, demonstrations, road construction).
ルート(経路)上に何かオペーレーションに影響を与えうるイベントがある場合には、事前にそのことも把握しておきます。たとえば、ニューヨークであれば、ニューヨークシティマラソンやニューヨークバイクレースがある日は、市内の至るところで交通封鎖があるので、それを踏まえて経路を決定していました。事前にこのようなイベントがあることを知っていれば、間違っても交通封鎖されている道に入っていくような失態は起こりません。
Inform the protection detail of the condition of the site at intervals of five minutes and one minute out.
大きなチームでの警護の場合、アドバンスはチームにクライアントの動きを随時報告する義務もあります。「あと5分で出ます」と伝えておけば、車で待つドライバーも焦ることなく待つことが出来ます。
Know primary and secondary routes of access and egress.
建物や敷地内の入り口や出口がどこにあるか全て把握しておきます。
Know emergency helicopter evacuation plans. Where and with whom is a landing zone (LZ) available, and has the crew flown into it?
緊急避難の際にヘリコプターが選択肢にある場合には、ヘリパッドがどこにあり、そこでだれが待機しているかなどの情報も抑えておく必要があります。
Determine motorcade arrival, departure, and staging areas.
警護車列の到着場所、出発場所、待機場所も調べる必要があります。待機場所が出発場所から少し離れた場所にある場合には、それを考慮したうえでドライバーと密な情報交換をして出発直前に出発場所へ車列を移動させるなどの手配が必要となります。アドバンスが事前にきちんと手配をしていないと、クライアントが出発場所で車列を待つなんていう恥ずかしい事態になってしまいます。
Know the exterior security posts.
外周警備を敷いている場所の場合には、その内容も確認します。
If practical, restrict and control access to unauthorized personnel.
可能であれば、関係者以外の立ち入りを制限、管理します。
Establish barricade requirements.
野次馬が多く集まる可能性があるような場所では、フェンスなどバリケードの準備をしておくこともあります。
Establish parking restrictions, and if necessary, remove parked vehicles from the immediate area. EOD sweep if available.
特に地下駐車場は注意が必要なのですが、可能であればクライアントの滞在中は駐車場に車を入れないようにする、既に駐車されている車を移動させる、爆発物などを積んだ車などがないか検査する等の対応も必要になります。ただ、これは民間の警護ではなかなか現実的ではないと思います。
Be familiar with floor plans (entrances, exits, elevators, roof access, basement, fire escape, stairwells)
当然のことですが、建物の入り口、出口、エレベーター、屋上へのアクセスがあるのか、地下の構造、避難通路、階段の場所などを把握しておきます。
Be familiar with the fire plan, firefighting equipment and systems
火災が起きた際の消防のシステムや防災道具の有無等も理解しておく必要があります。
Elevators
エレベーターには、最大積載量が記載されているはずです。しかし、実際のところ最大積載量よりも箱のスペースを知っておくことが重要になります。最大積載量では10人と記載されているエレベーターでも余裕をもって乗れるのは、6,7人ということがほとんどです。エレベーターがどのぐらいの頻度でメンテナンスされているか、管理会社の連絡先を調べておくことも重要です。更に慎重になるなら、故障や事故などのトラブル歴を調べることも助けになります。
Seating arrangements
会議などでクライアントがどこに座るか分からずウロウロ席を探すという事態が起こらないためにも、席指定がある場合アドバンスはクライアントの席をチェックしておき、席まで先導することで無駄な恥をかかずに済みます。
Be familiar with guests and VIPs (number, identification, screening procedures, and who by).
リスクが低いクライアントであっても、クライアントが会う人のリスクが高ければおのずとリスクは上がります。アドバンスは、可能であればクライアントが参加するイベントのゲストリストを入手し、ハイリスクのゲストがいないかの確認をすることも非常に重要です。ゲストリストがない場合などには、イベントに参加する人に対し事前のセキュリティチェックなどがあるかの確認もします。
Know who is in control of the keys.
鍵をかけることが出来る部屋や会議室の場合は、誰がその鍵を所持しているのか把握しておきます。可能であれば、クライアントの滞在中のみでも、鍵を借りられればより警護も楽になります。
Beware of press considerations.
通常はメディア対応ウェルカムのクライアントであっても、時としてメディアに対応したくないときもあります。そのため、メディアの存在の確認も重要です。
Know all locations of rest rooms.
クライアントも人間、トイレに行くこともあると思います。トイレの場所を把握しておくこともとても重要です。トイレの壁はタイルなど硬い素材が使われていることが多いので臨時のセイフヘイブンとして使用することもあります。
Know all locations of holding rooms equipped with telephones.
ランドラインは盗聴の危険もありますし、今の時代誰もが携帯電話を持つので電話がある必要性はありませんが、急遽電話をかける場合などに落ち着いて話せるスペースを確保しておくことも重要です。
Know all locations of agents’ security postings, down room, and refreshments.
アドバンスが警備の配置や、警護チームがクライアントを待っている間待機出来る部屋などを把握できていると警護チームも働きやすくなります。
Know all other scheduled activities.
アドバンスを任された場所だけでなく、クライアントの1日のスケジュールを把握しておくことで急な変更にも直ちに対応出来ます。
Establish the best route to the safe haven from various locations within the site.
場所ごとに避難場までの最短ルートを知っておく必要があります。
Establish the bet route to the limo or stash car from various locations with the site.
場所ごとに車列もしくはバックアップの車への最短のルートを知っておく必要があります。
Determine response time by local law enforcement.
緊急時にサポートとして計算できる警察が現地に到着するまでのおおよその時間を知っておくことも重要です。
アドバンスの仕事は、クライアントのステータス、そしてリスクが高ければ高いほど、調べる項目は多くなっていきます。ただ、日本の民間の警護で、アドバンスが上記の内容を全て調べることは9割9分ないのでそこまで心配する必要はありません。
慣れるまでは、調べるべきことを忘れないようにするためにもチェックリストを使用すると良いと思います。チェックリストを自分で作るのが大変だと思う方は、英語ですが、Jerry Glazebrook, Nick Nicholson共著の「Executive Protection Specialist Handbook」とHugh Keir著の「Close Protection – Tactical Aide-Memoire- 」のチェックリストがオススメです。参考にしてみてください。慣れてきたらオリジナルのチェックリストを作り、ポケットに忍ばせておくと便利です。
今回はザっとアドバンスがどんなものかの説明でしたので、今後は少しずつ分解してもう少し詳しく紹介していこうと思っております。2021年度から開始する弊社のCCPS/CCPSWやセミナーでもアドバンスの極意を教えていく予定です。
※トップの写真は、オーストラリアのシドニーにアドバンスして訪れた時にオペラハウスをバックに撮影。
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