近年、中国海軍の急速な進歩と拡大により、海上自衛隊の隊員たちは、国防の為に日々緊張感を持ち任務にあたっていることだと思います。しかし、以前にも書いた通り、人間の集中力は90分が限度だと言われています。いくら日々辛い訓練に耐えている自衛隊員であっても1日中集中していることは不可能です。緊急時に最大の力を発揮するためには、しっかりオンとオフを使い分ける、つまり力を抜けるところでは抜き、しっかり休むことが重要です。
大日本帝国海軍では、『ユーモアを解せざる者は海軍士官の資格無し』という心得があり、今も海上自衛隊ではその精神を受け継いでいるようです。2000年7月、ニューヨークで行われたアメリカの独立記念日を祝う洋上式典に参加した海上自衛隊の自衛艦「かしま」が、イギリスの客船「クィーン・エリザベス号(QE2)」に接触されるというアクシデントがありました。謝罪に訪れたクィーン・エリザベス号の機関長と一等航海士の対応をした「かしま」の上田勝恵艦長(当時)の「幸い損傷も軽く、別段気にしておりません。それよりも女王陛下にキスされて光栄に思っております」という返答が非常にウィットに富んでおり素晴らしいと現地で称賛されたようです。ユーモアを言うには、自分自身にも余裕がないと出来ませんし、ユーモアによってチームも和みリラックス出来ます。
訓練では、対処法を学び、身につけることが目的であるため、時間内のどこかで襲撃を受けます。そういった状況下では、ミスを犯したくないという緊張感から身体がガチガチになっている者、少しの音でも過剰に反応する者をよく見かけます。しかし、日常では襲撃される時間よりも、むしろ何もない時間の方が圧倒的に長いのです。訓練で出来ないことは、もちろん本番でも出来ません。しかし、残念ながらボディガードの仕事では、訓練で出来ていたのに、現実では出来ない場合も結構あります。
計画性もなく突発的に行動を起こすような襲撃者よりも、サーベイランス等で相手のバラナラビリティを研究し、緻密な計画と予行練習などを繰り返し準備周到な状態で攻撃してくる方が厄介な相手なので、ボディガードは気をつけなければなりません。いつもピリピリ気を張っていては、いずれ疲れて集中力が途切れしまいます。後者のような襲撃者は、こういう隙を狙って攻撃をしかけてきます。逆にいえば、集中力は必要な際に瞬間的に高め、通常は最低限のアンテナを張る程度、仲間と冗談が言えるぐらいリラックスしている方が相手にとっては隙の見極めが困難になります。
ユーモアのある受け答えが出来るかは、精神的に余裕があるかの判断にもなります。最初は、なかなか厳しいでしょうが、慣れてきたらユーモアの1つぐらい返せる程度の余裕を持てるようにしましょう。アメリカのシークレット・サービスを初め、イスラエルのシンベットや、私の前職である国連本部の警護チームもそうでしたが、それなりに業界で名の通った組織の警護人たちには、そういった余裕が感じられます。そしてやはり、彼等の受け答えにはユーモアがあり、本当に警護のプロなのか疑いたくなるくらい子供のような屈託のない笑顔を見せながらも、どこかスマートさが感じられるのです。
カテゴリー
投稿一覧は、こちら