カウンターサーベイランスの項で、プロのテロリストなどの犯罪者は襲撃前に必ず敵の弱点を知る為にサーベイランスをすると書きました。またカウンターサーベイランスを成功させる鍵は、相手がどんなことを調べているのかを知ることだとも書きました。
そこで、テロリストたちがどのようにターゲットを選ぶか知るのに有効なのが「CARVERマトリックス」です。これは、ベトナム戦争中にアメリカ陸軍のOffice of Strategic Services(OSS)によって開発された襲撃先/ターゲットを(1)Criticality, (2)Accessibility, (3)Recuperability, (4)Vulnerability, (5)Effect, (6)Recognizabilityの6つの面から数値で評価してランク付けするシステムです。ベトナム戦争では、主にオフェンス(攻撃側)に利用されましたが、このシステムはディフェンス(防御側)でも有効なことが証明されています。古いシステムですが、非常にシンプルで分かりやすいので、現在でもRisk Identificationのプロセス時に用いるボディガードは少なくありません。
Criticality (標的としての価値)
このターゲットを破壊、もしくはダメージを与えた場合にもたらされる政治的、社会的なインパクトを計ります。なおクリティカリティは、同じターゲットであってもシチュエーションによって異なってきます。
Accessibility (アクセシビリティ)
標的物まで到達する難易度の評価で、アクセスには内部の協力が必要不可欠、アクセスポイントが限られており、そのうえ高度なセキュリティシステムでアクセスコントロールとエントリーコントールが厳しく管理されていれば、難易度は高くなります。アクセスしやすいほど簡単な標的なので高得点となります。
Recuperability (回復までにかかる時間)
標的物がダメージから機能回復までにかかる時間を採点します。例えるなら、コンピューターを何らかのトラブルでリブートするとします。レキュペラビリティは、そのコンピューターが正常な状態で起動されるまでの時間となります。回復までの時間が長いほど高得点となります。
Vulnerability (脆弱性)
簡単に言うと標的に対して確実なダメージを与えるのに、どのぐらいの力が必要かということです。ハンドガンでも44口径などのハイパワーの銃であれば貫通させることが出来るNIJ Level IIの防弾ベストを着ているガードが守るアクセスポイントAと貫通にはライフルが必要となるNIJ Level IIIの防弾ベストを着ているガードが守るアクセスポイントBでは、より大きな口径の銃器が必要になるBよりもAが高得点となります。
Effect (効果)
エフェクトは、クリティカリティととても似ていますが、襲撃相手のリアクションなどが含まれている点が異なります。エフェクトには、アタックがトリガーとなり従業員の契約解雇、メインのターゲット以外への施設や人にもたらす被害、副作用も含まれます。
Recognizability (認識率)
標的がどのぐらい簡単に認識できるかを採点します。アメリカの大統領専用の警護車両といえばビーストです。とても目立つ車なので、車列の中に入っていても、すぐにどれがビーストだか分かります。その点では、レコグナイザビリティは高いんですが、シークレットサービスはレコグナイザビリティを少しでも下げる為に、車列には全く同じビーストを必ず2台用意しています。
以上の6項目の評価は1~5点でも1~10点で採点しても良いですが、採点基準を明確にしてチームメイトの誰が見てもすぐに理解できるようにしておくことが重要です。
例えば、Criticalityを1~5点で採点をするとしたら、下記のように採点基準を明記するとチームメイトにも優しです。
5点 ここを攻撃すれば、すべてが機能不能に陥る。
4点 ここを攻撃すれば、約8割が機能不能に陥る。
3点 ここを攻撃すれば、約5割が機能不能に陥る。
2点 ここを攻撃すれば、約3割が機能不能に陥る。
1点 ここを攻撃しても、目立った影響はない。
【CARVERマトリックス・サンプル】
Target | C | A | R | V | E | R | Total |
#1 | 2 | 5 | 4 | 4 | 2 | 5 | 22 |
#2 | 4 | 3 | 5 | 2 | 4 | 2 | 20 |
CからRまで全てのセクションを評価したら、点数の合計をだします。合計点数が高いターゲットほど狙われる可能性が高くなります。CARVERマトリックスをボディガードが利用する場合は、合計点数が高い場所ほど警戒を高め、必要があれば警備員をアサインするなどして、アクセシビリティをタイトにしてヴァルナビリティを補います。プロのボディガードは、コンティンジェンシープランを常に準備しておりますが、これはいわばレプキャラビリティ対策と言えます。
CARVERマトリックスは、ボディガードが絶対に使わないといけない技術ではありません。使っていない、もしくはCARVERマトリックスのこと自体を知らないボディガードもいると思います。ただプロとしては、色々な技術を知っておくことは大切です。
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