装備と労災の関係

私の前職の国連本部では、国連から支給された以外の装備を業務で身に着ける場合は、国連本部警備隊のChief of Security (COS)の許可をもらわなければなりません。これには、労災保険が大きく関わっています。隊員が勤務中に事故や事件で怪我をしたり、死亡してしまったとします。もし、その際にその隊員が国連から支給されている装備品を身に着けていなかった場合には労災と認定されない可能性があるのです。

国連本部の警備隊員が支給品に不満を持ち、自費でも使いやすい道具に変更したいと思う道具のトップ2は、防弾ベストホルスターでした。

国連本部警備隊では、NIJ Level IIIAの防弾ベストが隊員全員に支給されています。この防弾ベストは、契約業者の担当者が国連本部まで来て隊員1人1人採寸して身体に合った物が5年に1度支給されています。防弾ベストは着たことがある人なら分かると思いますが、ピッタリ身体に締め付けるように着るものなので中が結構蒸れ、特に夏は地獄です。真冬ですら、勤務が終わりベストを脱ぐと、中から湯気が出ることがあります。もし暑いからと防弾ベストを着ずに勤務したり、たとえ支給品よりも防弾レベルが高いものでも許可されていない防弾ベストを着て勤務をしていて撃たれてしまった場合も労災として認められない可能性があります。

制服の装備として支給されるサファリランド社製のグロック19用のホルスターは、特に問題がなかったのですが、警護チームなどの私服勤務用に支給されるホルスターはとても使いにくいパンケーキホルスターで、誰もそれをそのまま使っている人がいません。警護チームでは、各自が一番使いやすいと思ったホルスターを選んできて使用していますが、これは年に2度ある射撃試験をそのホルスターを使って受けて合格したうえでCOSから許可を得て初めて正規の装備として認められます。この場合(COSの許可済みな装備)は、労災を心配する必要がありません。なお、国連本部警備隊では、レベル3リテンション以上のホルスターでなければ許可はおりません。ロック解除機構の場所の問題で誤射が多いSerpaホルスターは、リテンションのレベルの関係なしに国連警備隊では使用が禁止されています。ちなみに私は、サファリランド社のALSホルスターを愛用していました。

(写真・上)SERPAのロック解除ボタン

防弾ベストと同じで、正式な許可を得ていないホルスターを使用していて、事件や事故に巻き込まれた場合には、労災として認められないという問題が生じてしまいます。

アメリカの場合には、自己責任を日本よりも重んじる傾向にあり、防弾ベストを着ないで勤務していても、許可を得ていないホルスターを使っていても、事件、事故が起きるまでいちいち注意をされることがありません。先日、ニューヨーク市警のオフィサーが、制服に政治的思想が見て取れるパッチを付けていたことがニュースになっていましたが、これが最たる例でしょう。

組織や会社から認められていない装備を身に着けることは全て自己責任です。国連本部警備隊の9割9分がナイフを持っていますが、実はこれは正式な装備ではありません。そのため、それがたとえ自己防衛であったとしても、ナイフで相手を傷付けてしまった場合には、事後調査の際にかなり追及され、最悪な場合には国連からサポートをしてもらえない可能性すらあります。

警備、警護の装備には相手を傷付けてしまう可能性がある道具も含まれています。それなりの覚悟を持ち、許可が下りていない装備を身に着けるのは自由です。日本とアメリカでは、色々異なるとは思いますが、便利だと思う装備を見つけることで技術向上につながると同時にリスクもあることも十分に理解しておく必要があります。とくにガチガチの契約社会のアメリカではそうです。組織や会社から支給される装備品に満足がいかない場合には、独り言のように不満を言うだけでなく、チームで装備について研究をして、サンプルなども用意して上層部に訴えかけることが一番です。

何度も書いていますが、警備にしても警護にしても1人ではできません。チームとして行動する場合には規律と統制は重要です。たとえば、万が一自分の装備に何か問題があっても仲間が同じ道具、もしくは互換性がある道具を装備していれば、それを借りることも可能です。そういう意味でも、勝手に装備品を変えることはチームにとってのメリットは多くありません。自己投資してでも自分の好きな装備を身に着けたいと思う人もいるかもしれませんが、そういう人はチームからすると規律を乱す危険分子だと取られかねないのです。

国連本部の警護チームに所属していた際に、支給品の防弾ベストに不満があった為、チーム一丸となり支給品の防弾ベストは制服用でスーツ勤務の警護チームには最適なものではないことをCOSに訴えたことがあります。仕入部も巻き込み業者にいくつものサンプルを送ってもらいテストをしたうえで最適なアンダーシャツ型の防弾ベストを選び、従来のベストとほぼ同等の金額での契約が出来る段階まで準備をしてCOSにプロポーザルを提出した結果、許可を得ることが出来ました。

組織に属している以上、支給品に文句がある場合には正規な手続きをすることは重要です。そんなことをしていては、手遅れになる、自分は自分が信じる装備を自費でも買って装備したいという人は、組織には属せずにフリーランサーとして働くか、自ら会社を興すべきでしょう。


カテゴリー

投稿一覧は、こちら

2021年6月
 123456
78910111213
14151617181920
21222324252627
282930 
最新情報をチェックしよう!