国連時代、さすがにスーツで仕事をすることが多いボディガード業務の際には携帯していませんでしたが、制服勤務の際にはガスマスクを携帯していました。制服勤務時代の写真で利き手とは逆の足についているバッグの中身がガスマスクです。
都市部での化学兵器を用いたテロといえば、1995年3月20日に東京で起きたオウム真理教による地下鉄サリン事件が有名です。この事件は、世界でも稀に見る大都市圏における化学兵器による無差別テロだったため、すぐに世界中で報道されました。その後1997年4月にChemical Weapon Convention (CWC)が発行され、化学兵器の使用のみならず、開発から生産、貯蔵、保有、移譲に至るまでの幅広い範囲が全面禁止されました。しかしながら、化学兵器を用いた事件が全くなくなったわけではありません。2017年にマレーシアのクアラルンプール国際空港で起きた北朝鮮の金正男氏がVXガスにより暗殺された事件や、反政府勢力が支配する地域をシリア空軍がサリンと塩素ガスを使用し攻撃したのも記憶に新しいところです。
ガスマスクが必要となるのはテロの現場だけではありません。2020年にテレビ番組「テラスハウス」で人気になった女子プロレスラーの木村花さんが、ネットでの誹謗中傷に心を痛め硫化水素を使って自殺を図ったニュースは多くの人に衝撃を与えました。硫化水素を使用した自殺は、2008年ごろに相次いで起こり、ホテルの従業員が事業場内でこれらの有毒ガスを吸い込み、労働災害が発生した事案もあります。このような場面でもガスマスクを使用することで被害を最小限に抑えることが出来ます。
以上のことをふまえ、国連本部警護チームでは、クライアントの自宅、オフィス、そして車の中に警護対象者用、そして警護員用のガスマスクを常備していました。ただし、ただ常備しているだけではあまり意味がありません。フィルターには有効期限があるので定期的なチェックをし、ガスマスクを瞬時に隙間なく適切に装着出来るよう訓練もしておかなければなりません。ボディガードは、必要があれば警護対象者が装着するのを手伝う場合もあるので、人に装着する練をもしておくことも忘れてはいけません。なお、もし化学兵器による攻撃にあった場合には、飛行機と同様にまずは自分から装着し、その後に警護対象者が装着するのを手伝います。国連本部警護チームでは、毎年ある射撃訓練の際に、ガスマスクを装着した状態での格闘術と射撃の訓練も行っていました。ガスマスクをつけた状態では、視界も狭まりますし、息もしづらいので、化学兵器による攻撃を受けたときに最善の選択が出来るよう、日頃からこうした訓練もしておくことがボディガードには求められます。
ガスマスクは、日本でも比較的簡単に入手できるので、警備・警護業に携わっていてまだ常備していないという方は導入を検討してみてはいかがでしょうか。
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