ボディガードのメディカルトラベルキット

以前、警護員、エスコート、それぞれの海外出張の際の荷造りのことを書きました。しかし、警護でもエスコートでも任務に関係なくボディガードが必ず荷物の中に入れるアイテムがいくつかあります。その1つが本日紹介する出張用にコンパクトにまとめたメディカルキットです。クライアント用とは別に、各隊員が自身の為のメディカルキットを持っていきます。ちなみにニューヨークの国連本部ビルには国連職員や国連を訪れる全ての客人の為に医師と看護師が常駐しており、警護員は出張前にそちらに立ち寄ると看護師がメディカルキットの中身を1つずつチェックしてくれ、足りなくなったものや出張先によって追加が必要な薬を補充してもらえます。これはかなり恵まれた特殊なケースなので、このようなサービスがない場合には、隊員が各自、出張毎にメディカルキットの中身をしっかり確認し、足りないものは補充しておく必要があります。

メディカルキットの中身ですが、絆創膏や包帯、消毒液、痛み止め、風邪薬、目薬といった一般的なものの他に、衛生環境が優れない地域にも行くことがあるボディガードはいくつか独特なアイテムを入っています。

まずは「虫よけスプレー」です。蚊が多く存在する夏場の森などに行く予定がある人は、ボディガードでなくても旅行鞄に入れて持って行く人も少なくないと思います。しかし、ボディガードが虫よけスプレーをメディカルキットの中に必ず常備している理由は少々異なります。WHOによれば、「The deadliest animal in the world」すなわち世界で最も危険な生物は、「」だと言われています。蚊媒介感染症には、ウイルス疾患であるデング熱チクングニア熱ジカウイルス感染症日本脳炎ウエストナイル熱黄熱、原虫疾患であるマラリアなどがあります。そして、これらの感染症は主に熱帯、亜熱帯地域で流行し、毎年多くの命が失われています。アフリカの一部地域では、黄熱病の予防接種が義務づけられている国もあるため、国連本部警護チームでは黄熱病の予防接種をチームに入った際に受けさせられます(黄熱病の予防接種は一度受けると、10年間有効)、そしてマラリアの心配がある地域に行く際にはマラリアピルが国連本部医療チームから渡されます。マラリア原虫に特異的な毒性を示す特効薬としてベトナム戦争あたりまで使われていたキニーネ(Quinine)が、微量ながら含まれているという理由から、トニックウォーターを飲むだけで十分なんて言う同僚もいました。しかし、蚊媒介感染症を未然に防ぐには、やはり蚊に刺されない対策をすることがとても重要です。

(画像引用元)GatesNotes https://www.gatesnotes.com/health/most-lethal-animal-mosquito-week
(画像)Ben’s Clothing & Gear Insect Repellent Spray

虫よけスプレーには様々な種類のものがあり、どれを選べば良いか迷うこともあるかと思います。そうした場合、長時間の警護任務を強いられることも多いボディガードは、主成分であるDEET(ディート、ジエチルトルアミド)の濃度が高いものを選ぶと、持続時間が長いので良いと思います。人によっては、アレルギーや肌荒れを起こす場合もあるようなので、その際には写真のBen’sのように服に吹きかかけて使用するものを選ぶようにします。

(画像)Emergency Drinking Water Germicidal Tablets

Emergency Drinking Water Germicidal Tablets」という錠剤もメディカルキットの中に入っていました。これは衛生的に心配な水を浄化させる錠剤です。日本のように、蛇口をひねれば、いつでも綺麗な水を得ることが出来る環境ばかりではありません。世界では約22億の人が綺麗な水へのアクセスがないと言われています。これは、世界人口の約28%にも相当します。飲料水で悩むことがない環境で暮らしてきた人が、劣悪な衛生環境下で雑菌が多く混入している水を少しでも体内に入れれば、急な腹痛や体調不良の原因になることは容易に想像できます。しかし、長時間において水を一切飲まない行為も身体には良くありません。通常そのような地域においては、アドバンスが事前に飲んでも害がない綺麗な飲料水を一定量用意しておくため、タブレットを使うことは滅多にありません。しかし、災害時にも利用が出来るということもあり、メディカルキットの中にはEmergency Drinking Water Germicidal Tabletsを常備しています。こちらは、アウトドアショップなどで購入が可能なようです。使い方も簡単で、水に錠剤を入れて溶かすだけです。

(画像)注射器と注射針

他には、注射器注射針もメディカルキットの中に常備していました。注射針を持っていることで空港の検査でひっかかったことは一度もありませんが、国連本部警護チームでは医師からの手紙を一緒に携帯していました。もし同じように注射器や注射針を、出張時に携帯するようでしたら、一度事前に医師や医療機関に相談した方が安全です。注射器や注射針をメディカルキットの中に常備していた理由は、劣悪な衛生環境下で扱われている注射針を使用されたことにより、B型肝炎ウィルスC型肝炎ウィルス人免疫不全ウィルス(HIV)等の血液感染性病原体による重篤、もしくは致命的な感染症を引き起こすリスクを抑えるためです。

ボディガードの仕事は、クライアントを護ることです。しかし、ボディガードが体調不良では、クライアントの事は護れないので、自分の身を守ることも重要です。代わりがいない出張時には特に自身の健康状態を気にかけ、少しでも体調に変化がある際は、重症化する前に対処出来るよう、メディカルキットを常備しておく必要があります。


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