ハリウッド映画では、アメリカ大統領がさらわれたりして、連絡が取れなくなるというシーンがよくあります。その場合、副大統領が臨時で大統領代行を務めるなど、代理の大統領が立てられます。これを英語では「Acting President」と言います。私が所属した国連本部には、大統領と副大統領はいませんが、代わりに国連事務総長(United Nations Secretary General)と副事務総長(United Nations Deputy Secretary General)がいました。国連事務総長に万が一のことがあれば、副事務総長が臨時で事務総長代理として指揮を執ります。こうした役割がある為に、共倒れのリスク削減の為に事務総長と副事務総長は、例え目的地が一緒であっても同じ車に乗ることも同じルートを通ることしません。車だけに限らず、移動の際は出来る限り違う手段、もしくは時間をずらす等の工夫をします。
余談ですがホワイトハウスをはじめ米政府機関や世界銀行の本部があるワシントンDCは、国連本部の警護官がよく行く出張先の1つでした。国連本部があるニューヨークシティからワシントンDCまでの距離約は400キロほどあるのですが、Accela(アセラ)という特急列車では約2時間45分で到着することが出来ます。それ対して、車だと約4時間30分かかります。列車は列車で警護が大変なのですが、短時間で到着できるため車で行くよりもアセラを利用して欲しいという警護官が多数派でした。しかし、事務総長と副事務総長が揃ってワシントンDCに出かける際は、どちらか一方が車でワシントンDCに行くことになります。私はなぜか毎回車でDC入りする側の警護任務ばかりで、残念ながら一度もアセラを利用したことがありません。
警護では、Exposure Time(露出時間)をいかに減らすかがキーとなります。そのため、警護官は選択肢に2つの安全なルートがあれば、短時間で目的地に着く手段を選択します。しかし、前述のような理由で、仕方がなくより時間がかかるルールを選択しなければならない場合もあります。そして、Exposure Timeが増えればその分だけ警護官はより綿密な警護プランが必要になります。不便な手段による移動を伴う警護は、一見外れくじのように思われがちですが、信頼されていなければ任されないので、ぜひ信頼の証だと思って任務にあたってほしいと思います。
※トップの写真は、先日Twitter上で国務省(Department of State)と間違えた国防総省(Department of Defense)の本部。こちらもWDCにあります。
カテゴリー
投稿一覧は、こちら