小さなバーが語る大きな物語──UNDSSにおけるCitation Barの意義

つい最近、国連時代の制服について質問を受ける機会がありました。その際、「胸の上に並んでいる細長い金属のバーは何か」と問われ、改めて説明する機会を得ました。現役当時は日常の一部として意識していませんでしたが、調べ直してみると、この「Citation Bar(サイテーションバー)」には、意外なほど奥深い歴史と意味があることが分かります。

警備

調べたところ、Citation Barの起源は19世紀ヨーロッパの軍隊にまでさかのぼります。当時は勲章のリボン部分に「戦役バー」と呼ばれる細い金属板を追加して、参加した戦役や作戦を示す習慣がありました。これが20世紀に入ると、メダルから独立した略綬(サービスバー)として発展し、日常用の制服にも取り付けやすくなります。
アメリカではその実用性と視覚的効果から軍だけでなく警察、消防などでも広まり、胸元のバーは「無言の履歴書」として、経歴や技能を一目で伝える役割を果たすようになりました。一方、日本では自衛隊には略綬がありますが、警察組織でCitation Barを常用する文化は一般的ではなく、制度自体の認知度も低いのが現状です。

私が勤務していたUNDSS(United Nations Department of Safety and Security)ニューヨーク本部では、Citation Barの授与は大きくいくつかのカテゴリーに分かれていました。周年記念的な授与の例としては、2015年の国連創設70周年記念Citation Bar(写真・下)があります。これは功績の有無にかかわらず、その期間に本部警備隊に在籍していた全員に授与され、所属の歴史的証明としての意味を持っていました。

歴史的事件対応として特筆すべきは、2001年9月11日の同時多発テロ発生時に国連本部で勤務していた隊員に授与された「9/11 Citation Bar」です。これは任務遂行の象徴であると同時に、国連が地元ニューヨーク社会と共有した危機の記憶を体現しています。

技能認定に基づく授与も存在します。射撃試験で高得点を収めた者には射撃優秀者用のCitation Barが与えられ、これは現場での技術水準と専門能力の証明となります。さらに、勤続年数を節目ごとに示すCitation Barもあり、5年、10年、15年といった区切りごとに授与され、経験と貢献が制服上で一目で分かるようになっていました。

UNDSSではCitation Barの着用は義務化されていませんが、公式には制服勤務時に推奨されています。配置はバッジの上部に整然と並べるのが規定であり、公式行事や儀式では着用が望ましいとされます。
しかし、現場では着用スタイルに世代差が見られます。ベテラン職員は自らの歩みと誇りを示すためにきちんと着用しますが、若手の中には「威厳を飾りで示すのは格好悪い」と感じる者や、単純に「重い」「邪魔」として省略する者も少なくありません。私自身も、制服勤務期間が短く、その後はスーツでの警護業務が中心だったため、着用する機会は多くありませんでした。

Citation Barは、革製の「Badge Backer」と呼ばれる部品を使って制服に装着します。Backerは、付けるCitation Barの本数に合わせて適切なサイズや形状のものを選びます。

外部から見れば単なる装飾のように見えるCitation Barですが、その背後には、組織の歴史や米国内外で発生した出来事、そして個々人の職務経歴が反映されている。アメリカのLaw Enforcementの現場において、この小さなバーは単なる装飾ではなく、功績を示し、信頼性を視覚的に伝える役割を担っている。日本ではほとんど見られない習慣であるが、米国の現場では胸元のわずかなスペースが、その人物の経歴と専門性を端的に示す指標となっている。


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