「所詮バイトだから」と考えてしまう人は少なくない。しかし私は、たとえアルバイトであっても、気持ち次第でいくらでも学べると考えている。自分が本当にやりたい分野とはまったく異なる仕事であっても、そこで得られる経験や気づきは、必ずどこかで生きる。だからこそ、自分の進むべき道が見つからずに立ち止まっているくらいであれば、どんな仕事でもいい、まずは飛び込んでみることを強く勧めたい。

偉そうなことを言いながらも、私自身が特別多くのアルバイトを経験してきたわけではない。しかし、業種の幅という点では比較的広い経験をしてきた。日本では、引っ越し業界最大手のA社、大阪・天神橋筋商店街でのお祭りのくじ引き販売員、イベント会場でのアンケート調査員、パチンコ業界2位のM社など、さまざまな現場を経験した。

そしてプロフィールには記していないが、国連本部での勤務を終え帰国後、しばらくセミリタイア生活を送っていた時期、時間を持て余すようになり、「何かを始めたい」と思った。そんな折、当時住んでいた地域にあった生活協同組合(コープ)で、夕食宅配のアルバイトを始めることにした。週3回、約1年間、軽自動車にエプロン姿で乗り込み、1日50件近くの家庭を回ってお弁当を届ける。国連本部で事務総長の警護まで務めた人間が、コープの配達員として地域を回っていたと言うと、周囲からは驚かれる。しかし、当の本人は心からこの仕事を楽しみ、多くのことを学び、気づきを得た1年だった。
コープの夕食配達の利用者は、高齢で自ら買い物や外食に出かけられない方や、妊婦さん、身体が不自由な方が中心である。興味深いのは、利用者本人ではなく、離れて暮らす子どもが代わりに申し込むケースが少なくないことだ。実際、配達先では「おいしくない」「飽きたからいらない」と受け取りを拒否されることもあった。なぜ本人が望まないものを、子どもたちはお金を払ってまで申し込むのか。そこには、明確な理由がある。
コープの配達では、「置き配」と「対面配達」を選択できるが、子どもが依頼者の場合、多くは「対面」を希望している。配達員は携帯端末で配達ステータスを更新し、依頼者のメールアドレスに通知を送信することが可能だ。つまりこれは、離れて暮らす親の「安否確認」を兼ねているのだ。表向きは「食事のサポート」だが、実際には「生存確認」という側面を持っている。
また、コープの採用は非常に厳しく、アルバイトであっても不採用になる人が少なくない。利用者に安心してもらうため、身だしなみや言葉遣いが徹底され、チャラついた雰囲気の人はほとんどいない。そうした信頼感が、この仕組みを支えているのだろう。コープは地域貢献を掲げており、こうした活用方法も十分に想定していたに違いない。高齢化が進む中で、特に地方では夕食宅配サービスが急速に拡大している。食事を届けるという一見単純な業務が、長い目で見れば防犯や救命につながる可能性を秘めていることに、私はこの仕事を通じて初めて気づかされた。
忘れられない出来事がある。ある一人暮らしの高齢男性の家に配達に行ったとき、いつも通り玄関から声をかけると、中から「助けて」という声が聞こえた。慌てて中に入ると、男性はソファーから転落し、身体が濡れた状態で床に倒れていた。身体が不自由なため、自力で起き上がることができず、電話も届かない位置に落ちてしまい、誰にも連絡できないまま、ただ私の到着を待っていたのだ。幸い、アメリカでEMT-Bの資格を持っていたため、男性を抱き起こし、ソファーに座らせることができた。その後、近くに住む娘さんに連絡を取り、到着まで付き添った。

あの時もし、私が夕食を届けに行かなければ、最悪の事態も起こり得ただろう。この経験を通して、私は「どんな仕事も誰かの命を支える一助となり得る」という事実を痛感した。
夕食の配達という、一見シンプルな仕事の中にも、人の生活を守り、地域を支える重要な役割がある。だからこそ私は思う。どんな仕事であれ、真剣に向き合い、そこから学ぼうとする姿勢があれば、必ず将来のキャリアや人生に活きてくる。
アルバイトであっても、そこには無限の学びと気づきがある。結局、すべては「自分の取り組み方」次第なのだ。
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