Perimeter Fence

警護の仕事を目指す人にとって、セキュリティについての基本的な理解はとても大切です。もちろん、フェンスの設置方法やその専門的な選定について細かく知る必要はありませんが、基本的な知識を押さえておくことは非常に重要です。特に、警護対象の施設や人物を守るためにどのような物理的障壁が使われているのか、どのようなセキュリティ対策が取られているのかを理解しておくことは、先着警護の際に知っておくとかなり役立ちます。

近年、国際情勢の変化やテロ脅威の高まりを背景に、重要施設や企業資産の境界防護(Perimeter Security)の重要性が再認識されている。警備業界においても、単なる物理的バリアに留まらず、テクノロジーを融合した「多層防護(Layered Security)」の考え方が求められるようになっています。
特に海外では、防護フェンスやセンサー、監視システム、パトロールなどを一体化させた包括的な防護計画が主流となっています。

加えて、以前スタンドオフディスタンス(Stand-Off Distance)についてはブログで紹介しましたが、建物までの距離を確保する設計も極めて重要です。つまり、車両による突入(Vehicle Ramming)や爆発物設置(IED Threats)を防ぐために、フェンスから施設建物まで一定の距離を取り、外周防御(Perimeter Defense)を強化する方法です。城を思い浮かべてもらうと分かりやすいのですが、日本では昔からスタンドオフディスタンスというかPerimeter Securityへの高い意識があり、歴史的に自然と人工物を組み合わせた防御設計が行われてきました。城でいえばお濠や石垣がその役目を果たしており、現代では歩道や車道からフェンスまでの間に自然地形(Natural Terrain)を活用した緩衝空間(Buffer Zone)を設ける手法が多く利用されている。環境になじみながら実際には侵入困難な植栽(Dense Landscaping)を施すなどの工夫がなされています。

対照的に、アメリカでは攻撃的防護(Active Defense)を重視する傾向があり、電流フェンス(Electrified Fences)や、強制排除可能なアクティブバリア(Active Vehicle Barriers)を使用する例が多い。この文化的違いは、セキュリティ設計を行う際に必ず理解しておくべき要素である。

世界市場のセキュリティフェンス

以下のフェンスは、ASTM F2656基準に準拠しており、車両進入防止機能(Crash Rated)や高い防御力を誇ります。特に、南アフリカのCochrane GlobalのClearVuシリーズは、見た目がシンプルで環境になじむデザインでありながら、非常に高い登攀防止機能を持ち、近年では多くの空港やデータセンターなどで採用が進んでいるようです。実は先日、CochraneのDivisional Managerと直接話す機会があったのですが、日本にもかなり進出してきているようです。アメリカからの休暇で人気で、空港のすぐ脇にビーチがあり、超近距離で飛行機の着陸や離陸を見られることで有名なセントマーティンの空港のフェンスはこちらの会社が施工したものです。

アメリカ市場

アメリカでは、重要施設や公共機関には、高耐久性のフェンスが多く使われています。これらのフェンスは、車両突入防止や侵入者の防止を目的として設計されています。代表的なメーカーと製品例を挙げると、次のようなものがあります。

メーカー特徴主な導入施設
Ameristar Perimeter Security高耐久スチール製フェンス「Stalwart」シリーズ空港、刑務所、軍施設
Atlas Security Products車両突入防止フェンス政府機関
Cochrane Global視覚的に目立たない防御フェンス空港、発電所

日本市場

日本では、セキュリティフェンスの需要はアメリカほど高くはありませんが、最近では高セキュリティが求められる場所で導入が進んでいます。特に、日本では景観や地域との調和が重要視されるため、フェンスの設置には細心の注意が必要です。そのため、過度に威圧感を与えないデザインや、自然環境を活かした設置方法がよく採用されています。

たとえば、歩道や車道からフェンスまでの間に緩衝地帯を設け、低木や花を植えることで、自然な形でセキュリティ強化が図られています。

その他の世界市場

世界中で、セキュリティフェンスの導入は急速に拡大しています。特に、オーストラリアや中東地域では高耐久性のフェンスが頻繁に使用されており、厳しい気候条件にも耐える強固な設計が求められます。また、アジアやアフリカでは、経済発展に伴い、重要施設や政府機関に対してセキュリティ強化が進んでいます。

主なグローバルメーカー比較

メーカー名本拠地主要製品特徴主な採用先
Cochrane Global南アフリカClearVuフェンス(高透明・高強度フェンス)視認性と高強度、防錆性能に優れる刑務所、政府機関、空港
Betafenceベルギー金網フェンス、パネルフェンスモジュール設計、多様な環境に対応空港、産業施設、インフラ
Ameristarアメリカ車両阻止バリア、防護フェンスDoD(国防総省)仕様対応、堅牢性重視軍事基地、空港
Guardian Fenceアメリカチェーンリンクフェンス、有刺鉄線低コストながら堅牢性あり刑務所、工場地区
Senstarカナダ振動検知フェンス、赤外線検知システム高度な侵入検知と防護フェンス連携発電所、国境警備
Southwest Microwaveアメリカ振動検知フェンスセンサー微振動検知技術の草分け、高精度国防関連施設、空港

基本的なセキュリティデバイス

セキュリティフェンスは警護現場で非常に重要ですが、フェンスだけではすべての脅威に対応することはできません。物理的な障壁とともに、監視システムやセンサーの併用が不可欠です。これらの機器が連携することで、より高度なセキュリティを提供することができます。

主な技術とメーカー

  • 振動検知システム(Vibration Detection System)
    Southwest Microwave、Senstarが代表的。フェンスに微細な振動センサーを取り付け、切断・乗り越えなどを即検知する。

この業界で最も有名なSouthwest Microwave(SWM)社の特徴的な製品:

  • RFインテリジェントセンサー: このタイプのセンサーは、周囲の環境で発生するわずかな動きを捉えることができます。特に鉄条網やフェンスの上に設置され、侵入者がフェンスを越えようとする動きに反応します。
  • 超音波侵入検知システム: 超音波技術を利用してフェンス周辺の動きを感知します。振動や人の動きを高精度でキャッチし、誤警報を減少させます。
  • 非接触型のフェンス監視システム: これにより、フェンスに接触しなくても不審な動きや侵入を検知できます。
  • 赤外線バリア(Infrared Barrier: IRB)
    IRBは、赤外線を使った侵入検知システムです。通常、センサーから発射された赤外線が反射することで、物体や人が検出されます。赤外線ビームは、屋内外の監視に使用されることが多く、感知距離や角度によって多様な設置が可能です。IRBは、送信機と受信機を用いたビームラインで動作します。ビームが遮られると、センサーが侵入を検知します。赤外線は天候に左右され屋外利用は厳しいと思われるかもしれませんが、実は屋外使用に耐えるよう、防水仕様になっており、天候の影響を受けにくいです。そして赤外線技術は高精度で反応し、誤検知を最小限に抑えることができます。主な用途としては施設の入り口、周辺エリアの監視に利用されます。特に、庭やエントランス周り、敷地境界に適しており、精度の高い侵入警告を提供します。
  • レーザースキャン検知(Laser Scan Detection)
    OPTEX RedScanなど。仮想フェンスを設置し、物理フェンスと組み合わせて死角を補う。ちなみにOptex社は、光学式センサー技術で有名な日本のセキュリティ機器メーカーで、RedScanは、Optexが提供するLiDAR(Light Detection and Ranging)技術を用いた侵入検知システムです。その特徴は、LiDAR技術によって対象範囲内の物体の動きを感知し、従来のセンサーと比べて高精度で広範囲の監視が可能です。またセンサー範囲を複数のゾーンに分けて設置し、侵入の場所を正確に特定できます。これにより、無駄な警告を減少させ、正確な対応が可能になります。RedScanも全天候対応で雨や霧、風などの天候条件に影響されにくく、安定した性能を提供します。主な用途としては施設の外周、空港、倉庫、事務所ビルなど、広範囲での侵入検知が必要な場所に適しています。
  • 動体検知カメラ(Motion Detection Camera)
    監視カメラ(CCTV)に搭載される機能で、動きを捉えてアラームを発生させる。
  • 統合管理プラットフォーム(Video Management System: VMS)
    BoschのBVMS(Bosch Video Management System)などが代表例。センサー、カメラ、アラームを一元管理し、迅速な状況把握を支援する。
  • Compound Alarm

Compound Alarm(コンパウンドアラーム)」は、複数のセンサー技術を組み合わせた総合的な警報システムのことを指します。これにより、誤警報を減少させるとともに、警戒レベルに応じた異なるアラームを鳴らすことができます。その特徴は、音響センサー、振動センサー、赤外線センサーなどが統合されており、侵入を多角的に検知します。ほかにもリアルタイムアラームとして各センサーからの信号をリアルタイムで処理し、即座に警報を発することができます。また柔軟な警戒設定: アラームの音や振動の強度、反応時間を設定することができ、必要な場所に特化した警戒ができます。主な用途としては施設の周辺や入り口、重要なセキュリティゾーンに設置されます。様々なタイプのセンサーを組み合わせることで、より精度の高い監視が可能です。

  • 防護ワイヤーとその種類

フェンス上部の防護強化には、以下のワイヤーが一般的に使用されます。

  • Concertina Wire(Cワイヤー):螺旋状に展開され、切断困難な高強度防護を提供
  • Barbed Wire(有刺鉄線):シンプルで安価な突起付きワイヤー
  • Razor Wire(剃刀ワイヤー):刃物状の鋭利な突起が施され、登攀を極めて困難にする

日本では、これらワイヤーの設置に際し、景観への配慮や安全性、近隣住民への影響(民法上の注意義務)も慎重に検討する必要があります。特に都市部では、無骨な防護は景観条例違反や住民クレームに繋がるリスクがあります。

警護業務における人的巡回の重要性

セキュリティフェンスや電子機器が提供する物理的な防御力だけでは、警護業務においては十分ではありません。人的巡回やパトロールによって、現場の安全をさらに強化することができます。警備員や警護員が巡回を行うことで、状況に応じた柔軟な対応が可能となります。

  • 徒歩巡回(Foot Patrol)
  • 車両巡回(Vehicle Patrol)
  • ドローン巡回(Drone Patrol)

これらの巡回は、フェンスや監視カメラだけでは見逃しがちな微細な情報や状況をキャッチするため、そうしてどうしてもブラインドスポットができてしまうので、そうした穴をカバーするのに不可欠です。実際に警護業務を行う際には、こうした巡回を通じて、より細やかな安全対策が実現されます。

警備員によるパトロール活動をトラッキングし、リアルタイムで監視するためのシステムも多く存在します。このシステムは、自動化されたパトロールロガーを使用して警備員の移動や点検状況を記録し、管理者はそれをリアルタイムで確認できます。これにより、警備員がパトロールを欠かすことなく、効率的に監視活動を行えるようになります。Detex社のシステムなどがその代表例で、特に長時間にわたる監視が必要な施設において、警備員が見逃すことなく、計画的なパトロールをサポートします。

注意すべきセキュリティ機材の選定

フェンスと併用するカメラの選定は重要です。特に、アメリカではHikvisionDahuaなどの中国製監視カメラが、国家安全保障上の懸念からFCC Banned Listに掲載され、使用が制限されています。これらの機材は、米国内では使用が禁止されているため、警護の現場で取り扱う場合には十分な注意が必要です。

また、日本でも使用する機材やシステムが法規制に準拠しているかどうかを確認することは、警護業務において非常に大切です。

最新版リスト公開URL:https://www.fcc.gov/supplychain/coveredlist

参考リスト(FCC Secure and Trusted Communications Networks Act of 2019

  • Huawei Technologies
  • ZTE Corporation
  • Hytera Communications
  • Hangzhou Hikvision Digital Technology
  • Dahua Technology

また、米国では2019年制定のNDAA(National Defense Authorization Act)Sec. 889により、これらの機器を使用している企業は、政府調達案件(GSA契約等)に参加できない仕組みが整えられている。
したがって、米国や欧米諸国の企業、特にセキュリティ関連のポジションで働く場合、使用機器が禁制対象でないか事前にチェックすることは必須である

高セキュリティフェンスの導入時の注意点

日本国内では、米国や欧州レベルの高セキュリティフェンスの需要が限定的であるため、主に輸入に依存する形となる。ClearVuやAmeristar製品など、基準を満たすフェンスは日本国内ではほぼ流通しておらず、輸入費用(運搬費、保険、関税)と施工費用(重機使用、地盤強化)が加算される。

これにより、一般的なメッシュフェンスとは比較にならない高コストとなり、仮に施設外周500メートルを防護する場合、最低でも5,000万円以上の工事予算が必要となる。さらに、フェンスを強固にするほど、視覚的にも威圧感を与えやすくなるため、特に日本では「地域共生」への配慮も不可欠である。

高セキュリティフェンスの導入には、単にフェンス本体の価格だけでなく、設置工事、輸送費、周辺インフラ整備、さらにはセンサー・モニタリングシステムの連携費用も含めた包括的なコスト計算が必要である。

一般的に、ClearVuフェンス(Cochrane Global製)などの高防御メッシュフェンスを導入する場合、材料費はAnti-Ramの場合1メートルあたり日本円換算で30,000円~50,000円が相場となる。これに加え、輸送費(海外輸送+国内陸送)、設置工事(地盤改良、支柱設置、アース処理を含む)、警備用監視システム(CCTV、侵入検知センサー)との連携施工を含めると、総工事費は少なくとも1メートルあたり100,000円~150,000円に達することが多い。

例えば、施設外周が500メートルの場合、最低でも5,000万円以上の費用が必要となる計算になる。また、日本国内では、海外製高セキュリティフェンスの需要が限定的であるため、ほぼ全ての資材を輸入に頼らざるを得ない。そのため、為替変動リスク、輸入通関手数料、施工業者の専門知識不足による施工コスト増加といった追加リスクも考慮する必要がある。特に輸入フェンスは、国内法(建築基準法、防災条例等)との適合審査に時間を要する場合があり、工期の遅延にも直結し得る。

さらに、セキュリティ機材の選定にあたっては、先述のFCCリストに留意し、欧米市場で認知されている信頼性の高いメーカーを選択することで、将来的なリスクを最小限に抑えることが重要である。仮に日本国内専用プロジェクトであったとしても、国際標準(ISO 28000, ISO 22301等)への適合を念頭に置いた設計を進めることで、施設の価値を一段高めることができる。

結論

フェンスは施設防護において物理的な防御の最前線として、重要な役割を果たします。特に、侵入を防ぐためには、単に障壁として機能するだけでは不十分です。効果的なフェンス設計には、スタンドオフディスタンス(安全距離の確保)や多層防護の原則を徹底することが不可欠です。これにより、敵対的な行動が起きた場合でも、初期段階での侵入を食い止めることができるとともに、警護対象者に十分な反応時間を提供することが可能になります。

さらに、近年の技術革新により、防護力は飛躍的に向上しています。例えば、振動センサーや赤外線バリアなどの高度なセンサー技術は、侵入の兆候を早期に検知し、即座に警報を発信することができます。これらの技術は、フェンス自体の物理的な強度だけでなく、その周囲の警戒範囲を大幅に拡大させる役割も担っています。センサーによるリアルタイムの監視システムは、警備チームとの連携により警護のチームに対して迅速で的確な情報を提供し、即時対応を可能にします。

そして注意すべきは、Claim Aid(侵入補助物)の存在です。これは、周辺に置かれた脚立や廃材、コンテナ、車両など、侵入者にとってフェンスを乗り越えるための手助けとなる物体を指します。いかに堅牢なフェンスであっても、近くにこれらの物が放置されていれば、そのセキュリティ効果は著しく低下します。そのため、先着警護官はフェンス周囲を巡回し、Claim Aidとなり得るものが存在していないかを確認・除去する義務があります。これは物理的防護の基本であり、人的警備との連携を図るうえでも欠かせない業務です。

これらの知識や技術を適切に理解することで警護のプロフェッショナルとしてのスキルをさらに向上させることができます。特に施設防護において、フェンスは単なる物理的障壁にとどまらず、警護対象者を守るための強力で精密なサポートシステムとして、警護活動の根幹を支える存在となります。


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