First Instinct

アメリカで警護をしている際によく上司から言われた格言に、“Always trust your first gut instincts. If you genuinely feel in your heart that something is wrong, it usually is.” というものがあります。意味は、「何か違和感を覚えたら、大抵の場合は何かそこには問題が潜んでいる。だからこそ第一直観を大事にして迷わない。」といった感じです。

実際に海外で警護をしていると、この格言の信憑性に疑う余地はありません。本日は、モーリタニア・イスラム共和国の首都ヌアクショットにアドバンスに行った際に実際に私が経験した出来事を紹介したいと思います。

(写真上)ヌアクショットのダウンタウン

モーリタニアは、警察ではなく軍が警護を一緒に担当するということで、到着後すぐに軍幹部と打ち合わせをしました。モーリタニアは、アフリカ大陸にある国ですが、アフリカ連合(AU)の他にアラブ連盟にも加盟している国です。国名からも分かるようにイスラム教の国で、アラブ系のムーア人(Moor)が人口の半数以上を占めています。担当をしてくれた軍幹部もムーア人で、中東でも感じた富裕層が醸し出す余裕すら感じとることが出来ました。ただ、2006年に石油と天然ガスの埋蔵が確認され、一時的に経済成長率がグーンと伸びたモーリタニアですが、その後技術不足で油田事業も縮小されたため、主な産業は農牧業で、GDPも153位とお世辞にも裕福な国とは言えません。

(写真上)私がアドバンス中に泊まっていたホテルには、セネガルの有名歌手も滞在していたらしく、彼の夕飯となるラクダと。

そんなモーリタニアにも関わらず、軍幹部は本番当日にはB7レベル相当の防弾車が3台、そして車列にも10台以上車の用意があると言うのです。もちろん、貧しくてもその後の見返りを求め出来る限りのおもてなしをする国もこれまで多く見てきたました。しかし、これといった根拠はないのですが、なぜかこの時の私はこの幹部の話が信用出来ませんでした。打ち合わせ終了後、すぐに現地の国連機関にサポートを求めました。どんなサポートを求めたかと言えば、本番の朝までに車列に使える車とドライバーを用意し、本番当日に全車両を空港に待機させておいて欲しいというものでした。私と一緒に軍幹部との打ち合わせに参加をしていた国連側の人間は、私の要求にとても驚き、反対しました。しかし、どうしても嫌な予感が拭い去れなかったので、何度も頼み込みどうにか納得してもらい車両とドライバーを準備してくれました。

(写真上)国連側が用意した車は、なんと日本政府が支援したものでした。

そうして本番当日を迎え、空港で軍幹部と再会しました。空港には、モーリタニア政府が用意するはずの車列がどこにも見当たりません。軍幹部にそのことを訪ねると、当初は「今空港に向かっている」と答えていましたが、いよいよ警護対象者の到着が近づき、これ以上は待てないという段階になり、軍幹部は「申し訳ない、予定が狂い2台しか準備出来ませんでした。」と言うのです。しかもその2台は、防弾車ですらありませんでした。こうして、私の第一直観は見事に当たってしまったのです。

(写真上)モーリタニアの外務省

モーリタニア軍が用意した2台の車は、車体がボコボコなうえ、ドライバーもビーチにでも行くようなTシャツにサンダル姿だったので、私はすぐに国連側の車両とドライバーで車列は組むことを軍幹部には伝えました。

他にも同じような経験を何度かしたことがあります。「建前」と「本音」の文化がない外国の方からすると日本人は何を考えているのか理解するのが難しいようです。しかし、生真面目な日本人は、本音では納得していなくとも約束をしてしまったことは守る傾向にあります。しかし、海外には、口では調子よいことばかり言っていて、実際は全然なんてことはよくあることです。そのため、ボディガードは経験を基に、勘を研ぎ澄ませ、少しでも怪しいと感じることがあればその対策をうっておく必要があります。


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