元国連本部警護官のここだけの話~ニューヨークのレストラン事情~

2020年、世界を震撼させた疫病COVID-19(コロナ・ウィルス)のおかげ(?)で、改めて衛生(hygiene)に関心を持つ人が急増しました。NYCには、インスタ映えするオシャレで人気なレストランがとても多くあり、人気店になれば世界中から注目を浴びます。そんなレストランの裏、つまりキッチン内の衛生管理がどうなっているのか興味ありませんか。

NYCでは、「ABCEasts」と呼ばれるHeath Department (保健所)主導によるFood Establish Inspection(衛生上の点検)が2010年から行われるようになり、点検を受けた店にはAからCの3段階評価のSanitary Inspection Gradeが下れます。健康に気を使う意識高い系が多いニューヨーカーたちの中には、店の入り口に貼られたそのグレードに気にして店を選んでいる方が多いようです。この評価は、近年ではネットでも見ることも出来ます。この点検により、衛生的に決定的な問題があるレストランは、すぐに営業停止処分を受けますし、「B」や「C」の評価を受けた店は客数にかなり影響が出るようです。そのため、NYCのレストランは、保健所の思惑通りに2010年以前に比べて衛生管理を意識する店が多くなりました。2021年7月現在、保健所の評価を受けた店は約27,000店にまでのぼり、そのうち最高評価である「A」を得る店は約9割ほどになっています。

ボディガードは、クライアントが食中毒をはじめ、そこで食事をしたがために体調を崩すようなことがないよう、レストラン等のアドバンスをする際には警備上の問題点だけでなく衛生上の問題がないかも確認をします。その際に、NYC内のレストランの場合には、保健所による点検のグレードも参考にするようにしています。警備上のリスクがない場合には、衛生上の評価が「B」や「C」でも行くことに問題はありません(近年では、衛生管理についての知識を持ち合わせたボディガードも少なくありません。しかし、ボディガードは、衛生管理のプロではありません。専門分野以外についてクライアントに指摘する際には、専門家の意見など事前にしっかりとした裏付けが必要です)。しかし、その旨は念の為、事前に秘書などを通して伝えておくことが、ボディガード自身のリスク・マネージメントの上でとても重要です。

保健所の点検は、完全な抜き打ちではないようですし、その評価を完全に信じきるのは安直過ぎます。ボディガードはレストランのアドバンスの際に避難口等の確認の為にキッチンの中も確認することがあります。その際に、保健所の点検結果を参考に、自身の目でもしっかりと衛生面のチェックもするようにします。ここだけの話ですが、レストラン関係者は、ボディガードが衛生面のチェックまでしているとは思っておらず、ありのままの状態のキッチン内を見ることが出来る場合も多くあります。さすがに店名をあげるわけにはいきませんが、A評価のレストランでも、実際はひどく汚かったり、ニューヨークの地下鉄で良く見かける巨大なネズミがキッチン内をサァーと駆けていたり、ゴキブリの死骸がキッチン内の床に転がっているレストランもありました。当然、このようなレストランでは、どんなにおいしそうに見えても、好意で食事を振舞われても絶対に口にしませんでした。好意を無碍にすることは申し訳ないですし、クライアントの面子をつぶすことになってもいけないので、とりあえず「デューティ中なので申し訳ありませんが、食事を口にすることは出来ません」などの言い訳をして逃れていました。同僚の中には、「宗教上の理由で、ハラルミート以外は口にできないのです」と言い逃れをしたところ、代わりにと魚料理が出て来てしまい、もう言い逃れが出来なくなり、やむを得ず食事をすることになった人もいました。言い逃れをする際に、その場しのぎで適当な言い訳をしてしまうと、あとで自分の首を絞めることになりかねないので気をつけてください。

最近は、COVID-19の影響でしばらく営業をしていなかった店舗などもありますし、ボディガードは以前よりも警備上の脅威のチェックと同様に衛生面でのチェックもより重要となっています。

アドバンスは、クライアントがエレベーターを使用する場合には、事前にエレベーターをチェック、その際には機内に必ず備え付けてある点検表から、メンテナンスの頻度、そして直近の点検日を確認します。時には、メンテナンス会社に連絡をして、過去の事故歴まで洗うことも少なくありません。レストランでも、キッチンやトイレに清掃のチェックリストを設けているところも少なくないので、点検表などがある際にはサッと目を通すようにします。そうした行為をすることで、普段あまり清掃をきちんとしていない店であっても、店にとっても宣伝になるような客が来る前にはきちんと清掃をするようになります。 このように近年、ボディガードには腕っぷしや脅威の管理以外の面でも、クライアントを守れるように最低減の衛生の知識などが求められるようになっています。私のように体格に恵まれていないがボディガードになりたいと思われている方は、他のボディガードが気付かない、そこまで気が回らないようなことにまで徹底するなど、他との差別化を図ることで需要を得ることが可能です。


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