クライアントの干渉

ボディガードが任務に失敗してしまう原因の1つにクライアントによる干渉があります。それはクライアントの9割9分が、セキュリティのStandard Operation Procedures (SOPs)を知らないことが原因です。もちろん依頼を受けた際、クライアント・オリエンテーションの中でボディガードがどのように警護任務を行うのか簡単な説明はします。しかし、それはクライアントがSOPsを十分に理解できるようなものではないので仕方がないことなのです。セキュリティのことは、セキュリティの専門家に全て任せてくれるクライアントであれば、何の問題もありません。しかし、セキュリティのオペレーションに口を出したがるクライアントもいます。

良くあるのがルートについて口を出してくるクライアントです。ルート・サーベイの項にも書きましたが、ボディガードは事前に色々な情報収集し、最適だと思われるルートを3つ(プライマリー、セカンダリー、エマージェンシー)選びます。当日、クライアントが動く前にアドバンスが実際にルートをチェックし、安全を確認したルートをチームは走ります。

最近はとても便利なナビ・アプリが沢山あり、あっという間に最短時間で到着してくれるルートを導きだしてくれます。私にも経験があるのですが、ボディガードが選んだ道が混んでいたりすると、クライアントがそうした便利なナビ・アプリで他の道を見つけ、そちらから行くことを指示してくる場合があります。「クライアント=ボス」、ボスが言うことは全て聞かないといけないと思っているボディガードが、残念ながら一定数います。クライアントなくして、ボディガードは食べていくことが出来ません。出来る限りの希望を叶えることは別に悪いことではありません。しかし、ルート等のセキュリティ・オペレーションに関しては、クライアントに何を言われようと簡単に変えて良いものではありません。とても便利なナビ・アプリですが、単純に最短距離や時間のルートを見つけ出すだけで、残念ながらチョークポイント(警護上危険な場所)等のセキュリティ面の考慮はされていません。他にも普通車1台であれば、難なく通れる道であっても、長い車列になれば難しいという道もあります。ナビ・アプリは、そうした状況までは考慮してくれません。クライアントからセキュリティ・オペレーションに関する指示があった際は、きちんと理由を説明してクライアントに納得してもらうことが警護のプロとしての責任です。

クライアントの指示に従ったが為に失敗をしても、クライアントはかばってくれません。アメリカのボディガード業界では、時々冗談ぽく「Dead Clients do NOT pay」という言葉が使われます。「クライアントが死んでしまったら、支払いはない!」と言う意味ですが、死なないにしてもクライアントがケガなどを負ってしまったら、支払いどころか訴えられる可能性だってあります。

綿密な下調べなしに行動をすれば、それだけリスクは上がります。ボディガードは、自身の仕事に確固たる自信とプライドを持ち、クライアントの言葉に流されたり、迷ったりすることなく、行動できなければなりません。最近は欧米文化の影響もあり、多少薄れてきていますが、日本人は幼いころから年功序列文化で育ち、年齢や階級が上の人に対して従順な性格を持つ人が多い傾向にあります。素晴らしい文化ですが、ボディガードには少し邪魔になることもあるので、ボディガードを目指す人は人から何を言われようと曲げない信念を持つことから始めてみてください。


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