アドバンス(先着警護・先遣隊)の任務の1つにルート・サーベイ(Route Survey)と呼ばれるものがあります。英語が分かる方は、もうすでに何のことか察していると思います。ルート・サーベイとは、経路調査のことです。クライアントがAからBに移動する予定があれば、アドバンスはAからBに行く経路を最低でも3つ(プライマリー、セカンダリー、エマージェンシー)準備します。
この3つのルート全てを、予定と同じ曜日、時間に調査することが理想です。なぜ同じ曜日と時間帯に調査をするのかは、曜日と時間帯によってトラフィック・パターンはかなり異なるからです。同じ経路でも、平日の午前7時と週末の午前7時では渋滞状況が異なるので、同じ時間に出発しても到着の時間にかなりのズレが生じることが容易に想像できます。
しかし、同じ曜日と時間に調査をするということは、最低でも1週間前にしないといけないということですから、現実ではなかなかそういった時間的な猶予はもらえません。
以前テクノロジーに頼りすぎるのは危険だと書きましたが、アドバンスに限っては事前調査でテクノロジーを大いに活用しても良いと私は思っています。グーグルマップなどは、曜日と時間帯を入力することで、過去の情報から平均を割り出し、おおまかなトラフィック・パターンを導き出してくれます。これは利用しない手はありません。しかし、ルート選びは別です。確かにグーグルマップに出発地と目的地を入力すれば、ルートも割り出してくれますが、これは参考にする程度がいいでしょう。テクノロジーに頼らず自らの知識と経験を基に決定することを奨励します。それは、グーグルマップが選ぶのは最短時間で着くルートや最短距離のルートですが、ボディガードのルート選びで重要なのはこれだけではないからです。最短距離であっても、ルート上に急カーブ等のスピードを落とさなければならない場所がある場合には避けます。襲撃者が狙い撃ちしやすい場所を「チョークポイント」というのですが、これには先にも挙げた急カーブの他に、上から物を落とされる危険がある陸橋、逃げ道が限られるトンネルや橋、工事現場、普通車が1台ギリギリ通れるような細い裏道などが挙げられます。他にも緊急時の回避のことを考えると、1車線の道よりも2車線の広い道が好ましかたりと、ルート選びには様々な条件があるため、グーグルマップのルートセレクションをそのまま使うことが出来ないのです。
今はコロナでかなり勤務体制が私の在籍したころと変わってしまったようですが、私が在籍したころの国連本部の警護チームでは、アドバンスリポート作成のためにアドバンスが実際に1度ルートを事前に走ります。クライアントが車での移動を予定しているのなら、アドバンスも同じように車でルートを走ります。クライアントは車での移動でも、歩いいけるような短い距離の場合は徒歩でルートの確認する場合もありましたが、近道などはせずに車と同じルートを歩いてルートの確認をしていました。
日本で4号警備に従事する人に聞いた話だと、日本ではアドバンスがいることはあってもルート・サーベイをアドバンスが実際に同じ道を走ってすることはかなり稀なようです。民間の場合、クライアントにかかってしまう費用などの問題もあるので仕方がないことですが、本来であればルート・サーベイは実際にアドバンスが選んだルートを走ってチェックするべきだということは頭に入れておいてほしいと思います。
ルート・サーベイは、抑えるポイントが多く1回では紹介しきれないので、2回に分けてお伝えします。
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