要人警護において代表番号を登録してはいけない理由
要人警護におけるアドバンス業務は、表に見える移動計画や会場レイアウト以上に、細部の詰めが成否を分けます。その中でも軽視されがちでありながら、実際の緊急対応能力を大きく左右するのが、セーフヘイブンとして設定した機関の「連絡先番号」です。
病院、警察署、大使館といったセーフヘイブンの連絡先として、末尾が0で終わる代表番号が登録されているオペレーションプランやセーフヘイブンカードを、実務の現場ではいまだに数多く目にします。しかし、この代表番号こそが、緊急時に最も機能しない連絡先であるという認識を持たなければなりません。
日本において、末尾が0000や1000で終わる番号は、ほぼ例外なく代表番号です。これらは音声ガイダンスや交換台につながることを前提に設計されており、緊急時に即座に担当者へ到達することを目的としていません。丁寧で分かりやすい音声案内は、日本の組織文化を象徴するものですが、それは平時の問い合わせに最適化されたものであり、要人警護における緊急対応とは無関係です。
ナビダイヤルやフリーダイヤルも同様です。これらは利用者向けの総合窓口として設計されており、必ず音声ガイダンスを経由します。夜間や休日には営業時間外の案内のみで終了することも珍しくなく、セーフヘイブンとして登録する番号としては適していません。
一見すると直通に見える「1111」や「2222」といった覚えやすい番号についても注意が必要です。日本の電話番号制度上、これらの並び自体に特別な意味はありませんが、実務上は代表番号や交換台、オペレーター用として割り当てられているケースが多く見られます。見た目がシンプルであっても、実際には振り分けの入口に過ぎないことが少なくありません。
この点は、海外との文化的・構造的な違いを理解すると、より明確になります。米国や中東の一部では、外部向けであっても部門直通やデューティーオフィサー直通の番号が比較的開示されており、「番号=機能」が分かりやすい設計になっていることが多くあります。一方、日本では対外的な窓口を一本化する文化が強く、直通番号は意図的に非公開とされている場合がほとんどです。そのため、Webサイトや公式資料に掲載されている番号をそのまま登録する行為は、実務的には極めて危険です。
要人警護のプロフェッショナルが行うべきアドバンスとは、番号を「探す」ことではなく、「検証する」ことです。あえて代表番号に電話をかけ、音声ガイダンスを突破して人につながり、こちらの立場と目的を簡潔に伝えた上で、救急外来、夜間当直、地域課、領事部やデューティーオフィサーといった、緊急時に直接対応する部署の直通番号を確認します。その後、必ずかけ直して同じ挙動を示すかを確認し、人が出ることが担保された番号のみを連絡先として登録します。
セーフヘイブンカードやオペレーションプランに記載されるべき番号は、見栄えの良い代表番号ではありません。それは「確認済みで、人につながることが保証された番号」であるべきです。この思想を理解していないプランは、形式上整っていても、実際の危機対応能力を備えているとは言えません。
若手のCPや警護要員に対する教育においても、この点は非常に重要です。電話番号を調べて記載することと、緊急時に機能する連絡先を構築することは、まったく別の作業です。この違いを理解せずにアドバンスを行うと、緊急時に音声ガイダンスを聞きながら立ち尽くすという最悪の状況を招きかねません。

緊急時において最も貴重な資源は時間です。その時間を奪う可能性のある番号を、アドバンスの段階で排除できているかどうかは、警護チームの成熟度を如実に表します。要人警護におけるプロフェッショナリズムとは、派手な戦術や装備ではなく、このような地味で見落とされがちな準備を、どこまで徹底できているかにこそ表れるのです。
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