国連警備隊の警護訓練で行われるユニークな「ウォームアップ」をご紹介します。
これは、ハイリスク地域での任務に就くための国連内資格「CPOC(Close Protection Officer Course)」の初期段階で実施される訓練のひとつです。現在も実施されているかは分かりませんが、私自身が受けた際の体験を紹介します。
■ 国連本部と現場の違い
国連本部(ニューヨーク)の警護チームは、基本的に固定メンバーで構成されており、長年共に勤務することで強固な絆が形成されています。
しかし、ひとたび本部を離れ、海外での警護任務に出れば、即席のメンバーによるチーム編成も少なくありません。
繰り返しになりますが、警護は個人で行うものではなくチームで行うもの。
たとえ初対面のメンバーであっても、即座に信頼関係を築き、
阿吽の呼吸で動けなければならないのです。
この訓練に参加したメンバーも例外ではなく、世界各国から派遣された者たちで、ここで初めて顔を合わせた者ばかりでした。
だからこそ、このウォームアップには意味があるのです。
「訓練に合格するために、まず仲間を信じ、支え合う関係を築け」
そのための重要なアイスブレークでもありました。

■ 訓練開始:全員プールへ
早朝、教官から「軽いウォームアップだ」とだけ告げられ、私たちは深いプールへと入ります。足がつかない水深。つまり、立ち泳ぎ必須です。
突如、1人の隊員に向かってバッグが投げられます。
「この中には非常に重要な書類が入っている。絶対に濡らすな!」
と教官の声。
■ チームの動きに変化が生まれる
バッグを受け取った隊員は、バッグを頭上に掲げ、必死に立ち泳ぎを続けます。
しかし次第に体力が奪われ、顔まで水に沈みそうになっていきます。
それでも周囲は、見ているだけ。
そこに教官の怒号が響きます。
「おい!仲間が沈みそうなのに何もしないのか!」
その瞬間、体力に余裕のある隊員が泳いで近づき、
「こっちに渡せ!」と叫びながらバッグを引き継ぎます。
その隊員もまた、やがて限界を迎えると、次の隊員が
「次は俺が持つ!」と接近し、再び引き継ぐ。
こうしてバッグを一度も濡らすことなく、約40分間、チームで協力して耐え抜きました。

■ 「たかが40分」と思ったあなたへ
「たった40分?」と思われるかもしれません。
ですが、水中で立ち泳ぎをしながら、両手でバッグを掲げ続ける。
しかも、濡らしてはならないという強いプレッシャーの中で行うこの行為は、想像をはるかに超える負荷があります。
しかもこれは、訓練初日の「ウォームアップ」にすぎません。
■ この訓練が教えてくれたこと
- 一人で抱え込むな
- 仲間の様子を見て、声をかけろ
- 困っている者には、自ら助けに行け
- 必要なときは、役割を交代する勇気を持て
そして何より、出会ったばかりのメンバーとの距離が一気に縮まる。
互いの性格や対応力が見え、無言の信頼関係が生まれる。
これこそが、この訓練の核心でした。
■ 最後に
このような訓練は、単なる体力テストではありません。
現場で生きる「判断力」と「連携力」を身に付けるための貴重な時間です。
「誰かが危機にあるとき、すぐに動けるか」
それはこのプール訓練で試されているのです。
もしチームビルディングや、即席チームのアイスブレークに困っているなら、ぜひこの訓練を参考にしてみてください。
想像以上に、心と身体、そしてチームが鍛えられます。
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