――現場目線で見るエスコート描写の変化――
第3話では、主人公が子供のエスコートを担当するシーンが描かれました。シリーズ全体を通して「警護職」という専門的な業務を一般視聴者に伝える試みは意義深いものですが、今回もいくつか現場目線では気になる描写がありました。
まず一点目は、IDカードホルダー/ストラップの扱いです。おそらく、子供の保護者や関係者であることを示すためのアイテムという設定なのでしょう。しかし、主人公が任務中にも首から下げたまま行動している点は少々危うく見えました。実務では、IDカードホルダー/ストラップは引っ張られる・絡まるといったリスクを伴うため、基本的には着用を避けるのが原則です。
もっとも、国際会議や大規模イベントなどでは、アクセスレベルに応じて色分けされたIDカードホルダー/ストラップを着用することが義務付けられるケースもあります。そのような場合、外すことはできません。したがって、安全リリース機構付きのIDカードホルダー/ストラップを使用する、あるいは容易に破断する素材を選ぶなど、現場でのリスク軽減策が求められます。

次に、服装の不適合も引き続き見られました。子供との外出エスコートでありながら、主人公が終始スーツ姿というのは現実的とは言えません。特にパンケーキ店を訪れるシーンでは、場の雰囲気に明らかにそぐわず、周囲から浮いて見えました。警護・エスコートにおいては、対象者の年齢・行動予定・訪問先の環境に応じた服装を選ぶことが基本です。「自然に溶け込むこと」こそが、実務上のプロフェッショナリズムです。
また、チームで警護時のポジション取りにも違和感がありました。女性警護員がリーダーに立候補し、その任務を主人公から引き継いだにもかかわらず、対象者の前を歩いていた点です。
単独でのエスコートであれば先導もあり得ます(そもそも単独で十分な場合は、脅威レベルが低いと判断されます)。しかし、チームでの警護においてリーダーが前方を歩くのは不適切です。

リーダーは通常、チーム全体を統制し、緊急時には対象者を安全にコントロールするために対象者の後方に位置します。前を歩くと、対象者の様子を確認するたびに振り返らなければならず、前方からの脅威に対する反応が遅れます。また、他の隊員への指示伝達も困難になるため、戦術的にも非効率です。前方部の任務はあくまで「進行ルートの安全確認と先導」であり、「全体統制と判断」を担うリーダーとは役割が異なります。
さらに今回、チームリーダー交代時のクライアント対応にも問題が見られました。作中では、クライアントが主人公に電話で「あなたがリーダーではなかったのか」と問いかける場面がありました。
これは、リーダーに就任した女性警護員が、その日の任務開始時にクライアントへ適切な説明を行っていなかったとも受け取れます。
本来、契約段階で「警護チームのリーダーは日ごとに異なる」旨をクライアントへ明示していれば問題はありません。しかし、そうでない場合、リーダーの交代は事前報告が基本です。クライアントと警護チームの間には、相互の信頼関係が不可欠であり、クライアントが「誰がリーダーなのか」を把握できていない状況は非常に危険です。

万が一の緊急時、クライアントが誰を信頼し、誰の指示に従うべきか分からなくなれば、混乱を招き、行動の遅れにつながる恐れがあります。警護の現場においては、「誰が責任を持つのか」をクライアントに明確にしておくことが、安全管理上の最低条件なのです。
ここで関連して感じたのは、日本の警備業界におけるコミュニケーションのあり方です。
日本帰国後、さまざまな警備会社と関わる機会がありましたが、相対的に日本の警備会社は現場隊員はもちろん、マネジメント層でさえコミュニケーションに消極的、あるいは能力的に不足している傾向が見受けられます。これはオペレーション全体にもネガティブな影響を及ぼす要因です。
欧米では、警備・警護においてProactive(先手型)なコミュニケーションが重視されます。つまり、事前の共有・確認・状況説明が徹底されており、「伝え忘れ」や「思い込み」を未然に防ぐ文化があります。対して日本は、問題が起きてから対応するReactive(受け身型)なコミュニケーションが中心で、トラブル時に初めて連絡や共有が行われるケースが少なくありません。
特に警護のように一瞬の判断が命運を分ける業務では、この差が結果に直結します。
ただし、「Proactiveなコミュニケーション」とは、クライアントに対して不必要に話しかけたり、過剰に接触することを意味するわけではありません。そうではなく、必要な情報を、必要なタイミングで、正確に伝達する姿勢を指します。警護職における“静かなプロフェッショナリズム”とは、まさにこのバランスの上に成り立っています。
第2話までに比べると、第3話は全体として演出の精度が上がり、警護描写としてのリアリティは少しずつ改善しています。
ドラマという特性上、完全な実務再現は難しいものの、警護・エスコートという職務を一般視聴者に知ってもらうという点では意義のある試みです。今後、こうした細部の積み重ねが、よりリアルで説得力のある作品へと発展していくことを期待したいと思います。
カテゴリー
投稿一覧は、こちら