Asset Protectionとは?

International Security Journal20023年9月号に記事を掲載して頂きました。今回は警護についてではなく、現在勤務している会社で携わっている「Asset Protection」について書いています。

Protection(プロテクション)という言葉は、すでに日本語でもすっかり定着しているので、その意味は誰でも分かると思いますが、Asset(アセット)は、まだ一部の人にしか認識されていない単語ではないでしょうか。筆者は、本業とは別に2022年の7月末からStockXという会社でAsset Protection Managerとして勤務しているのですが、そこで勤務する警備員も「Asset」という単語に馴染みがなかったため、ずっと「Assistant」Protection Managerだと勘違いしていたようです。「Asset」の意味を辞書で調べると、資産、財産、資本と出てくるので、Asset Protection Managerという役職を聞いて、ファイナンス関連の職業だと勘違いされる方も少なくありません。

Asset Protection は、セキュリティの一部であり、財産や価値ある資産へのリスクや脅威を最小限に抑え 、損失、損害、または盗難から保護します。Asset Protectionの戦略には、保険の購入、リスク評価、物理的なセキュリティ対策(警備、監視カメラ、安全な保管場所、方法、アクセス制限など)、法的措置などが含まれます。

これでもまだどんな仕事なのか想像がつきにくいと思うので、実際に筆者が現在Asset Protection Managerとしてどんな仕事をしているのか簡単に紹介します。

先ずは、必要に応じてポリシーSOP(Standard Operation Procedure) を新規作成します。特に現在働く会社は、2016年創設のスタートアップ企業でポリシーやSOPもまだ十分でない為、この仕事はとても重要です。既存のポリシーやSOPも1年ごとにすべて見直し、必要であれば改正します。ポリシーやSOPはただ作るだけでは意味がなく、全社員に周知される必要があります。そのため、Asset Protection Managerは、事あるごとにポリシーやSOPを社員に教育します。

Auditは、そのため、Asset Protection Managerが行うのは主に遵守監査で、社員がポリシーを遵守しているかをチェックしています。Auditは毎週行われ、その結果はオペレーションリーダーに送られます。その際に、もしオペレーションリーダーがポリシーを知らない、理解できていない場合にはしっかり理解できるように指導もします。Auditの結果は、分析官が細かく分析、データ化したものが経営陣に提供され、Auditの結果が低い施設や部署には指導が入ります。

Asset Protection Managerは、さまざまな調査も行います。新しい施設立ち上げの際には、どのようなCCTV(監視カメラ)アクセスコントロールシステムがどれくらいどこに必要なのかを、施工業者と協議します。軍や警察のような公的機関、もしくは筆者の元職場である国連などでは、とにかく脅威を最小限に抑えるために予算のことはさほど心配せずに最新で最適なセキュリティーシステムの導入が可能です。しかし、企業の場合、特に日本はセキュリティーの予算に関してかなりシビアなので、どうすれば限られた予算内で効果的なシステムを導入できるか考えなければなりません。そのため、 Asset Protection Managerは、最新のシステムだけでなく、古くても十分に有効なシステム等についても、詳しく知っておく必要があります。

また、損失を防止するための取り組みや戦略を意味するLoss Prevention(ロスプリベンション)も Asset Protection Manager の仕事で、カスターサービスやオペレーションリーダーからの依頼があれば、”WMS (Warehouse Management System) “と呼ばれる倉庫管理システムのデーターを元にカメラで紛失した商品を探し出します。

ロスプリベンションの調査に似ているのが、Fraud(詐欺)の調査です。こちらもカスタマーサービス、もしくはFraudチームから依頼を受け調査します。Fraudにも様々な種類があり、その種類はInternational Security Journalに掲載された記事で紹介しているので興味がある方はぜひそちらを読んで頂きたいお思います。筆者が担当しているAPACでは、送っていない商品を送ったとごねてみたり、使用済みの中古商品やダメージがある商品を送っておきながら、鑑定にケチをつける販売者、購入者だとすでに商品を受け取っているのに受け取っていないというクレームや、届いた商品が頼んだ商品ではなかったと中身を入れ替えて返品してくるケースが多くあります。

さらに、イベント等のリスクアセスメントを行い、その結果をもとにイベント・オルガナイザーにリスク軽減の為のアドバイスをしたり、イベント当日も必要に応じて、現場で緊急時に備え待機することもあります。

インシデント、つまりセキュリティや安全に関連する予期せぬ出来事が起きた場合は、すぐに調査を行い、原因の解明、そして再発防止の為の対策案を練ります。若くまだ精神的に未熟な社員が多い会社では、社員同士のトラブルも少なくありません。トラブルがあった場合には、社員から聞き取り調査、そしてCCTVによる調査を実施します。調査結果は、人事にも共有され、処分等は人事から下されることになります。人事により処分がくだり、退職となれば人事からのリクエストでその社員の施設へのアクセスのはく奪、処分に納得がいかない元社員が報復等に戻ってこないように、一定期間モニターを行うこともあります。

外資は基本、日系企業よりもハラスメントに対して厳しいので、ハラスメント被害を訴える社員がいた場合には迅速な調査が求められます。ハラスメントはとてもセンシティブな問題なので、人事、そしてリーガル(法務部)と協力して慎重に調査を進める必要があります。調査としては、社員への聞き取り、そしてCCTVによる調査が主となります。ハラスメントに限らず、聞き取り調査を行う場合には、1人では行わず必ず2名以上で行い、同性よる聞き取りが最善です。

また、ハラスメントには、ワークプレイスバイオレンス、つまり職場での暴力行為も含まれます。多いのは、自身の感情をコントロールできず、物に怒りをぶつけるケースです。人に対する暴力はもちろんですが、物にあたる行為も周りにいる社員に対して恐怖をあたえるには十分なので、立派なワークプレイスバイオレンスに該当するため、きちんとした対応が求められます。

稀なケースではありますが、警察からの捜査協力依頼を受けることもあります。その際、Asset Protection Managerが主要な窓口となり、リーガル(法務部)と協力して捜査に協力します。日本の警察は、電話や最近ではメールで捜査協力を要請することがありますが、電話やメールだけでは実際に警察からの要請かどうか確認が困難です。情報管理が不十分な企業は、警察からの協力要請と言われれば、電話やメールで回答してしまうことがあるかもしれません。しかし、基本的には電話やメールでの回答は避け、正式な捜査協力を求める書面の提出を依頼するようにします。

Asset Protection Managerの役割には、セキュリティ管理だけでなく職場の安全を維持する責任も含まれており、そのためには安全に関する法令も理解しておく必要があります。以前、コスト削減のため、簡単な作業だからと業者に依頼せず自分で行おうと考えた社員がいました。高さ6.75メートル以上での作業では、フルハーネス安全帯の着用が義務づけられており、法令に基づいてハシゴを購入する場合は、フルハーネスの取得と高所作業の安全講習の受講も必要Nあのですが、その社員はそれを把握していませんでした。筆者がこの点を指摘したことで、最終的にハシゴの購入は中止されました。

そして、万が一労災事故等が発生した場合、現場にいれば直ちに対応しますが、必ずしもそうではないため、立ち会えない場合は、電話などで現地の警備員に対処方法について具体的な指示を出すことが求められています。そして、その後は事故の調査を行い、それをもとに再発防止策を構築します。

ベンダーマネージメントも、Asset Protection Managerの業務の重要な部分です。Asset Protectionが関わる主要なベンダー(業者)は、通常、警備会社です。自社で警備員を雇う方がコスト的には効率的ですが、警備員が急に休む場合や、警備員の教育に時間やコストがかかるという理由で、警備会社を利用するのが一般的です。そのため、警備員の研修は、通常、警備会社が行うべき事柄ですが、警備員の経験や知識が不足している場合もあります。こういった場合、研修により改善が見込めれば、研修を提供しスキル向上を支援しますが、そうでない場合は、別の警備員を手配するように促します。

警備会社に関連してもうひとつ、市場調査と費用対効果の調査も Asset Protection Managerが行います。国際企業の場合、通常は本社の所在地に基づいた基準を使用することが多く、StockXも例外ではありません。本社がアメリカのデトロイトにあるため、セキュリティ関連の基準は日本よりも厳格なのですが、これらの基準をそのまま日本に適用しても効果的ではないため、ローカリゼーションが必要です。例えば、StockXはニューヨークやロンドンにも店舗を持っていますが、これらの店舗では警備員を常駐させています。そのため、原宿の店舗にも当初、警備員を常駐させました。しかし、日本の警備員は、企業によって異なるでしょうが、適切なトレーニングを受けていない場合も多く、ただ存在するだけで、事件や事故が発生した場合に適切な対応ができるか疑念がありました。さらに、勤務時間内にスマートフォンで遊んだり、遅刻したりする警備員も多く、勤務態度にも問題がありました。そこで、筆者が渋谷区および店舗がある地域の犯罪率を調査し、近隣の店舗も実際に巡回して、その必要性を再検討した結果、警備員の常駐は廃止され、大幅なコスト削減となりました。

今回は、Asset Protectionの重要性とその多岐にわたる職務内容について紹介しました。Asset Protectionはセキュリティの一環で、財産と資産をリスクから守る役割を果たします。ポリシーの策定、社員のセキュリティ教育、監査、調査、危険要因の評価など、その仕事は多岐にわたり、綿密な計画、調査、および協力を通じて職場の安全性を維持し、資産を保護するために損失やリスクを最小限に抑えるという重要な役割を果たしています。


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