Situational Awareness (SA)/Body Language

Be aware of your surroundings」や「if you see something, say something」といった標語は、アメリカで暮らしたことがある方や暮らしている方なら1度は耳にしたことがあるフレーズだと思います。それぐらいアメリカでは、ボディガードでなくてもお馴染みのフレーズなのですが、これは防犯意識の向上を促進する言葉です。そして、これは、「Situational Awareness (SA」と言い換えることが出来ます。SAは、ボディガードに関係なく、人間が安全かつ効果的な決断/判断を下す上での基準となります。

SAは、難しく考える必要はありません。ルーム・サーチの際に書きましたが、ゴミの回収日でもない日に、クライアントの自宅前にゴミが置かれていたら何かおかしいと感じとるっといったことも含まれます。SAは、普通に暮らしていく上での常識を持ち合わせてさえいればボディガードでなくても誰でも持っている能力です。SAという言葉を知らなかったとしても、人は大抵の場合、無意識のうちにSAを基に行動判断をしています。ただボディガードは、神経を研ぎ澄ませ、普通に暮らしている人たちよりも鋭いSAの感覚を持っておく必要があります。

観光客が多く訪れるケニアのマサイマーケットでは、スーツ姿の私は場違いな感じでした。

SAは環境だけなく、人にも適応が出来ます。実際に、人間の行動を科学的に研究するBehavior Science(行動科学)は、SAのコンポーネントの1つです。Behavior Scienceを専門的に学び、ボディガード業務に役立てている人もいます。アメリカでは、1970年代後半には既にBehavior Scienceの警備における重要性が説かれていて、文献も数多く存在しますが、専門的な知識や技術を習得するには、とても時間がかかります。そこで、まずは選挙活動等のオーディエンスが多く集まる状況で役立つボディ・ランゲージ/ノン・バーバル・コミュニケーションの基礎知識から身につけると良いでしょう。

ボディ・ランゲージから異常を感知するためには、いくつか注目する点があります。頭から足、上から下へと順を追って注目する部分を紹介します。ただし、ルーム・サーチとは異なり、必ずしもこの順番でチェックしなければならないということではありません。選挙活動等では、候補者と握手をしようと無数の数の手が伸びてきます。このような場合には、先ずはクライアントとの距離がより近い手からスキャンしていきます。

このことを理解してもらったうえで、まずは「」で見ていく部分を紹介します。日本人は、感情を表に出さないと外国人からは思われがちです。しかし、人間観察の訓練を積んでいくと次第に、不安や焦り、怒りなど微妙な違いを感じ取れるようになります。顔のパーツで最大限に注意をするべきは「」です。以前、海外の警察官にサングラスをする人が多い理由を書きましたが、「目は心の鏡」と言われるほど心の中を映し出します。アドレナリンが高まると、心拍数は上がり、瞳孔が開く傾向にあります。脳神経に働きかけるMDMA, LSD, コカイン、アンフェタミン等の麻薬や、抗うつ剤のSSRI(Selective Serotonin Reuptake Inhibitor)などの使用によって瞳孔が開いている場合もあります。なお、このような極度の緊張等で瞳孔が開いた状態は、ボディガードに必要な周辺視野(Peripheral Vision)が狭まってしまうので、気をつけないといけません。

次に目を付けるエリアは、「脈拍」です。アドレナリンが上昇すると、脈拍も同様に早くなります。平常でない脈拍の人を大勢の中から見つけることは容易なことではありません。しかし、目が泳いでいたり、目線を伏せがちにしていたり、瞳孔が異常に開いている人を見つけたら、こめかみに浮かぶ脈に注目してみてください。

他に注目する点は「」です。心拍数の上昇は、不随意発汗を引き起こします。夏場は、発見しにくいのですが、冬場や、クーラーが良く効いて涼しい室内にも関わらず、大量の汗をかく人がいたら注意が必要です。SAでは、暑い夏場に、冬のコートなどを着ているような人も注意が必要です。余談になりますが、休暇でスペインのバルセロナに行った際に、電車内でスリをしている親子を見たことがあります。この親子は、盗ったものを隠すために夏にも関わらず、冬用の分厚いコートを手に持っていました。このように、なぜ不自然な様子をしているのか、理由が解明できればリスクの軽減や回避も可能となります。

顔で最後に注目するのは、「」です。異常な緊張で呼吸が早くなっており鼻からでは十分な空気が接種出来なくなっているために、口がだらしなく開きっぱなしなっている場合があります。しかし、別な原因で、上記の症状が顔に出ている場合もあります。たとえば、私も、手術をするほどではないものの副鼻腔炎の為に鼻だけでは呼吸がしづらく、意識をしていないと口が少し開きがちです。このような場合もあるので、何か1つ症状が当てはまったからといって、すぐに疑いをかけることはせず、他にも怪しい症状がないか確認していきます。

顔の次に注目するのが首下からウエストまでの「上半身」です。上半身で特に注意をする部位が2つあります。1つは、「」です。これから襲撃しようとする人は緊張等で身体に力が入り、肩が上がった状態、いわゆる「いかり肩」になる傾向があります。次に上半身で注意するのが、「胸部」です。一般的に、男性は腹式呼吸、女性は胸呼吸が多いと言われています。女性は腹筋群の発達が男性に比べて悪く、体を締め付ける衣服の着用が多いことが男性と女性で呼吸法に違いが表れた理由だと言われています。ただ、緊張感が高まる襲撃時には、性別に関係なく胸呼吸による浅い呼吸になる傾向にあります。胸部が、不自然に早いペースで小刻みに上下している人がいた場合には、注意が必要になります。

上半身の次に注目する部位は「」や「」になります。人の命を奪おうとしている場合には、9割9分、 銃やナイフと言った武器が使用され、それらの武器は手によって操作されます。漫画の世界なら、靴に仕込んだナイフで攻撃なんて展開もあるかもしれませんが、現実世界ではまだ足による先制攻撃をしかける襲撃者の話は聞いたことがありません。国により、襲撃の際に使用する武器の傾向が異なりますが、大抵の場合ナイフや銃は腰回りに隠し持っていることが多いです。そのことから腰当たりの高さで不自然に手をウロウロさせている人を見つけたら、注意が必要となります。他にも強く拳を握りこんでいる人も注意が必要です。これは強い攻撃意識の表れだと言われています。過去の襲撃を調べると多くの場合、襲撃前には手を組んだ状態や、ポケットに突っ込んだ状態から行動がスタートしているという情報も頭のどこか片隅にもでも入れておきましょう。ボディガードは業務の上で必要に応じて、ポケットから手を出すように指示、組んでいる腕をほどくように頼むなどの対応をします。

腕や手を確認したら、次はウエストより下、「下半身(脚)」に注意してみます。下半身で主に注目するのはスタンスです。武道や格闘技の経験者なら分かると思いますが、これから誰かに攻撃を加えようとする人がボーと突っ立っている(棒立ちの状態にある)ことは稀です。肩幅程度に足を開き、片足を引き半身の状態のファイティングスタンスに近い体勢を取る人がいたら注意が必要です。また拳銃を腰に携帯している場合には、携帯しているサイドをターゲットから離して立つことが多いことも頭に入れて置く必要があります。

部位毎に見てきましたが、最後に周辺視野を使い全体像を見ていきます。不自然に身体中をかきむしるような異常な行動を見つけたり、ウロウロ行ったり来たりしている人間がいないか確認したり、攻撃に備えつま先に重心を置いて前傾姿勢になっているような人がいないかも注意して見ていきます。

ルーム・サーチと同様にボディ・ランゲージから異常を読み取れるようになるまでには時間と経験が必要です。早く慣れるためにも、暇な時間を見つけては広く全体が見渡せる2階か3階にある喫茶店などの窓際の席から街の人がどのような行動をしているのか観察することはとても良い訓練になりますし、すぐにでも始められるので挑戦してみてください。


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