コーポレート・セキュリティにおける「常識」と構造的課題

――マネジメントサイドを志す人が直視すべき現実と、組織を見抜く視点

警備業界における「常識」は、必ずしも業界外、あるいは隣接分野と共有されているものではありません。とりわけコーポレート・セキュリティの分野では、表面的なJob Descriptionと、実際に背負うべき責任の重さとの間に、深刻な乖離が存在するケースが少なくありません。

これは特定の国や文化に起因する問題ではなく、コーポレート・セキュリティという職能そのものが内包する、構造的な課題として捉えるべきものです。

なお、本稿で扱うのは、いわゆる現場ガードの話ではありません。警備業界の中でも、マネジメントサイド、すなわち判断・責任・最終意思決定に関与する立場に焦点を当てています。

多くのJob Descriptionには、「勤務時間:9時から18時」といった記載があります。しかし、警備業界、とりわけコーポレート・セキュリティにおいて、それは形式的な条件にすぎません。
何らかのインシデントや判断を要する事案が発生すれば、週末であろうと、早朝であろうと、深夜であろうと対応が求められます。これは警護に限らず、警備業全般に共通する業界常識です。

ところが、コーポレート・セキュリティの現場では、こうした時間外対応や突発的判断を前提としない制度設計がなされているケースがあります。その結果、インシデント発生時の対応や最終判断は、必然的に限られた一部の人間に集中します。

この構造自体は、制度として一概に否定されるものではありません。問題は、その環境下で、責任の重さを十分に理解しないまま、口先だけで意欲を示し、責任あるポジションに手を挙げる人材が現れることです。

一部の人は、報酬や時間の条件を理解したうえで責任を引き受け、時間外であっても対応します。しかし、セキュリティ意識の低い人材はそうはなりません。

さらに深刻なのは、そうした姿勢を見抜けず、責任あるポストに就けてしまうマネジメントの存在です。その結果、実際に責任を理解し、行動で示す人材が常に“しりぬぐい”を担わされ、疲弊し、やがて組織を去っていきます。

一方で組織に残るのは、責任を引き受けず、言葉だけで評価を得ようとする人材です。こうして、会社のセキュリティレベルは静かに、しかし確実に低下していきます。

多くのメジャー企業では、システムやプロセスが高度に構築されており、誰が着任しても業務が機械的に回るよう設計されています。これは運用上の強みである一方で、「その人である必要がない」という構造でもあります。

結果として、必ずしもセキュリティのバックグラウンドを持たない人材であっても、ポジションに就けてしまう現実があります。

このような環境は、組織設計やプロセス構築を学ぶという意味では、一度は経験してみる価値があります。将来、事業を立ち上げる際の参考になる部分もあるでしょう。しかし、セキュリティプロフェッショナルとして生きるという視点に立った場合、それが最善の選択であるとは限りません。

警備業界でマネジメントサイドへのキャリアを志す人に求められるのは、会社の規模やブランド、肩書きに惑わされない冷静な視点です。見るべきなのは、その組織が、

  • 責任ある行動を正しく評価しているか
  • 覚悟を持つ人材を消耗品として扱っていないか
  • 「何かが起きたとき」に、本気で背負う文化が存在するか

という点です。

その会社で、セキュリティプロフェッショナルとして価値を発揮できるのか。そして、本当に必要とされるポジションがあるのか。それを見極めることが、キャリア形成において何より重要です。


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