2022年7月8日(金)、奈良県の大和西大寺駅にて応援演説を行っていた安倍元総理が銃撃を受け倒れました。まずは安倍元総理のご冥福をお祈りします。
安全だと思われていた日本でこのような事件が起きたことは、日本国内だけでなく世界にもかなり衝撃を与えました。真実は現場に実際にいた人でないと分からないので、あくまでニュースからの情報や事件の現場をMap等で見たうえでの憶測の範囲ですが、著者の考察をここにまとめたいと思います。
事件後のワイドショーなどでコメンテーターたちが安倍元総理にSPが1名しかついていないことを疑問視するコメントがありました。しかし、SPの人数は脅威レベル、そして予算など全てを考慮したうえで決められた数です。そして今回の事件現場には現地奈良県警の警察官が多く配置されていたようですし、SPが1名であったことは問題ではなかったと思います。むしろ問題は、他にあったように思えます。例えば、演説場所、警備の配置位置、警備・警護を担当する警察と警護対象者とのコミュニケーションの問題です。
まず気になったのは、安倍元総理が演説を行っていた場所です。四方を車両用防護柵(ガードレール)に囲まれた場所でした。一般的に考えれば車両の進入を防ぎ、襲撃者もガードレールによって容易に警護対象者に近づくことが出来ない最適な場所だと感じるかもしれません。しかし、警護の観点でこの場所を見ると一般的な考えとは全く逆で、絶対に避けたい場所です。背後や前方にガードレールがあるだけであれば、特に問題とならないのですが、四方を囲まれてしまうと大きな問題となります。というのも、警護では、万が一の事を考え、必ず避難経路を用意することが鉄則です。一般的なガードレールの高さは60㎝~1mだと言われています。スリムで長身の安倍元総理をもってしても、年齢的(67歳)なことを考えると、緊急時にレールをジャンプして避難することは考えにくくなります。まして警護対象者がケガを負った場合、警護スタッフが対象者を抱えながら避難することになります。そういった時にも60㎝から1mの高さのガードレールは、かなりの障害物となってきます。今回はローンウルフ(単独犯)でしたが、これが複数犯であることも想定し、救命処置は勿論大事ですが、それよりは追撃を防ぐ為にとにかく安全な場所に対象者を避難させなければなりません。まさにレーガン大統領がジョン・ヒックリーに銃撃を受けた際、シークレット・サービスがとにかくレーガン大統領を車に押し込み避難させたようにです。今回は、単独犯だった為、追撃はありませんでしたが、代わりに携帯電話のカメラを向けた野次馬が周りによってきている様子が動画に残っていました。
おそらくSPもこれぐらいのことは気がついていたはずです。ただきっと場所の変更を説得出来なかったのだと思われます。国連時代、毎年のように日本に出張に訪れ、多くのSPの方と一緒に働いたことがあります。その際に、警備・警護を担当する警察と対象者、特に政治家との間にダイレクト・コミュニケーションが存在しないことが気になっていました。海外では、警護のプロフェッショナルとして警護関連の問題が存在する場合には、警護が直に対象者とコミュニケーションを取ることが可能です。実際、著者も国連時代、潘基文氏やアントニオ・グテレス氏が望んでも警護的にリスクしかないような選択肢の場合には本人に直接説明をして理解してもらっていました。警察が対象者との間にダイレクト・コミュニケーション、そして彼らにもう少し権限があれば、きっと今回このような場所で演説をすることは避けれたのではないかと思っています。
勿論、対象者との間にダイレクト・コミュニケーションがあれば、全て警護側の思う通りに行くとは限らないことは重々承知しています。そんな時には100%の希望はかなわないにしても90%や80%の代替え案を用意しておき、100%の要望を諦める代わりにそちらを了承させるぐらいの策は張り巡らしておく必要があると思います。
今回の演説の場所が何らかの理由で他に移動できないであれば、せめて聴衆が360°にいるシチュエーションだけ避けるべきだったのではないでしょうか。道路交通法が許すのであれば、演説中の安倍元総理の背後に背の高いワゴン、もしくはパトカーを停車しておくだけでも背後からの狙撃は難しくなります。それが出来ない場合には、素性が分かっている支援者を元総理の背後にずらっと隙間なく並べるだけでも襲撃者は標的を定めづらくなります。安倍元総理は演説中、台に乗っていたということなので応援旗をずらっと背後に集めるだけでもそれなりの効果があると思います。
勿論、どんなに背後を容易に取られない場所選びをしても、リスクが0になることはないので、最終的には警備・警護を担う人の力によるところが大きくはなります。今回の事件の動画を見ると、多くの方が指摘するように、警備・警護の意識が前方にばかりに向いてしまっており、後方に十分な注意を払っていませんでした。これは今後改善すべき点でしょう。そして対象者が今回のようにケガ等を負った場合には、警護官自身が素早く対応できるよう、最低限の救命の知識と技術の習得も求められるはずです。
また、もっと近場の病院に搬送すればなんていう意見も耳にしましたが、銃傷の場合だと小さな病院では対応が難しいでしょう。奈良県のトラウマ(外傷)センターを調べると今回ドクターヘリで搬送された奈良県立医科大学付属病院と市立奈良病院ぐらいなので、ヘリパッドがありドクターヘリの利用が可能な奈良県立医大病院へ搬送したのは警護プラン通りだと思われます。
今後、このような事件が2度起きない為にも民官関係なしに警護業に携わる全ての人がそれぞれの技術、知識の向上に努め、警護業の重要性を広く社会に認知させ、警護のプロの意見がもっと反映されるようにしなければなりません。
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