近年、警護業務におけるリスクは、従来の物理的脅威への対応に加え、情報領域へと大きく拡張しています。その中でも、見過ごされがちでありながら極めて重要な問題として挙げられるのが、警護員自身によるSNS利用、とりわけ勤務中のセルフィ投稿です。
まさかと思われるかもしれませんが、最近、ある警護関係者によるSNS上の指摘として、若手の警護員が勤務中にセルフィを撮影し、それを公開していた事例が共有されていました。このような行為は、警護実務における基本的な職業倫理および情報統制の観点からすれば、容認し難いものです。
この背景には、世代間におけるSNSとの関わり方の差異が存在します。SNSが普及する以前に職業倫理を形成してきた層にとって、勤務中の記録行為やその外部公開には強い抵抗感が伴うのが一般的です。一方で、スマートフォンおよびSNSが日常環境として定着した中で成長してきた層にとっては、日々の行動を撮影し共有することが自然な行為であり、その心理的ハードルは相対的に低い傾向にあります。この認識の差が、無意識のうちに警護業務へ新たなリスクを持ち込んでいると考えられます。
問題の本質は、投稿者本人に悪意がない場合であっても、セルフィという行為そのものが情報漏洩の起点となり得る点にあります。写真には、撮影者の意図を超えて多様な情報が含まれます。背景に映り込む建物、看板、道路標識、周辺環境などから現在地が特定される可能性は十分にあり、オープンソース・インテリジェンス(OSINT)の観点から見れば、断片的な情報の組み合わせによる位置特定は現実的な脅威です。その結果、要人の所在や行動が第三者に把握されるリスクが生じます。

ここで明確に区別すべき点として、要人自身やその秘書等によるSNS発信との違いが挙げられます。確かに、要人や周辺スタッフが活動や訪問先をSNSに投稿することで、結果として居場所が特定されるケースは少なくありません。しかしこれは多くの場合、認知向上や広報活動といった目的に基づき、一定のリスクを織り込んだ上で行われているものです。
一方で、警護員によるセルフィ投稿は、そのような戦略的意図を伴わないまま、無防備に情報を外部へ露出させる行為であり、両者は本質的に異なります。また、要人や秘書側が必ずしも十分なリスク認識を持っているとは限らず、意図せず高リスクな情報発信を行ってしまう場合も現実には存在します。このような状況においては、警護側が適切に注意喚起を行う必要があります。
ただし、その際には伝え方に細心の注意を払う必要があります。警護対象者との信頼関係を維持しながら、リスクの本質を理解してもらうためには、状況に応じた表現とタイミングが不可欠です。さらに、仮に広報目的などの意図が明確であったとしても、高リスク環境下においては例外なく慎重な対応が求められます。投稿のタイミング調整や内容の制限を提案することも、警護の重要な役割の一部です。
加えて強調すべきは、警護官によるセルフィのリスクは、要人がその場に存在しているか否かに関わらず、警護任務中である限り常に存在するという点です。例えばアドバンス業務においては、その時点では要人は現地にいないものの、その後の訪問予定や動線に関する重要情報を扱っています。その段階で撮影された写真であっても、ロケーションや環境情報が外部に露出すれば、結果として要人の行動予定の特定につながる可能性があります。したがって、要人が写っていない、あるいはその場にいないという理由でリスクが低減されるわけではなく、アドバンスを含むすべての警護関連業務において、セルフィの撮影およびSNS投稿は慎むべき行為です。

さらに重要なのは、「SNSに投稿しなければ問題ない」という単純な認識の危険性です。仮に本人がSNSへ投稿しなかったとしても、友人や知人との間で画像を共有した結果、その第三者が意図せずSNSに投稿してしまう可能性は十分に考えられます。一度デジタルデータとして外部に共有された情報は、完全にコントロールすることが困難であり、意図しない拡散リスクを常に伴います。この観点からすれば、問題は投稿行為そのものにとどまらず、撮影および共有という一連の行為全体に内在していると言えます。
したがって、基本的な原則としては、警護任務中におけるセルフィの撮影自体を控えるべきです。やむを得ない理由により撮影を行った場合には、その後の取り扱いに最大限の注意を払う必要があります。具体的には、外部共有の禁止、保存環境の管理、不要データの速やかな削除など、情報管理の徹底が求められます。
また、「過去に撮影した写真であれば問題ない」とする見解についても慎重であるべきです。写真は一見無害に見えても、写り込んだ要素や環境情報から多くの情報が抽出可能であり、時間の経過によってリスクが完全に消失するわけではありません。情報は文脈によって意味を持つため、後に別の情報と結びつくことで価値を持つ可能性も考慮する必要があります。
もっとも、警護員も人間であり、任務を通じて訪れる場所が人生において一度きりの機会となる場合、その瞬間を記録として残したいと考えることは自然な感情です。しかし、その感情と職務上の責任は明確に区別されなければなりません。
現実的な対応としては、仮に記録として写真を残す場合であっても、SNSへの投稿は厳に慎むべきです。また、撮影データについてもスマートフォン内に長期間保存するのではなく、可能な限り早期により安全性の高い媒体へ移管し、適切に管理することが求められます。これは警護官としての基本的なリスクマネジメントの一環です。
警護とは、最悪の事態を常に想定し、その発生確率を極小化する職務です。その観点に立てば、SNS上のセルフィ一枚であっても、それがリスクとなり得る以上、軽視することは許されません。むしろ、小さな情報の断片が重大なインシデントへと発展する可能性を常に念頭に置く必要があります。
現代の警護官に求められるのは、フィジカルや戦術能力に加え、情報環境に対する高度なリテラシーと自己統制です。自らが情報漏洩の起点とならないという強い自覚こそが、プロフェッショナルとしての信頼性を担保する重要な要素であると言えます。
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