「恋する警護24時」Season 2 に見る“警護のリアリティ欠如”とその本質的問題

ドラマ『恋する警護24時』のSeason 2が始まりました。
Season 1でも警護・警備の現場を知る人間からするとツッコミどころが多くありましたが、今シーズンも期待を裏切らず、初回から多くの疑問を抱かせる内容でした。
もちろん、ドラマというエンターテインメントの性質上、リアルを忠実に再現しても視聴者に伝わりにくいという側面は理解できます。
しかし、それを踏まえたとしても“基本の部分”がなっていない――そう感じざるを得ない場面が多く見受けられます。

まず、格闘シーンで警護員の一人が高所から落下した瞬間、リーダーを含む全員がそちらに気を取られる場面がありました。
仲間が傷つくことは確かに耐えがたいことですが、任務中において最も優先されるべきは仲間ではなく対象者です。特にリーダーはどんな状況でも対象者から目を離してはなりません。そこが実務上の最大の原則です。

現実の某国での話ですが、私が帯同していたVIPの車列移動中、先導していた白バイの1台が事故を起こしたことがありました。
しかし、車列は一切止まることなく、何事もなかったかのようにそのまま進行しました。
おそらくVIPは、そんなことが起きたことすら気づいていなかったでしょう。
これこそプロフェッショナルの動きです。感情ではなく、任務とリスクマネジメントに基づいた冷静な判断がそこにあります。

次に、ドレスコードにも疑問が残ります。今回の対象者はビジネスパーソンではなく、本人もカジュアルな服装であったにもかかわらず、警護員全員がスーツ姿というのは不自然です。
警護の基本は「環境に溶け込む=ブレンドイン」にあります。スーツ姿が逆に目立ってしまうショッピングモールのような場所では、むしろカジュアルに寄せた服装の方が理にかなっています。特に今回は「メディアから逃れる」ことも任務の一つである以上、警護が目立ってしまっては逆効果です。

また、ショッピングモールでの警護シーンでも、2名の警護員が並んで先行チェックを行っていましたが、現実には時間の制約がある中で2人が一緒に行動するのは非効率です。
実務では、1人がルートを確認し、もう1人が対象者の動線に合わせて別エリアを先回りするなど、手分けして警戒エリアを広げるのが基本です。
これにより広範囲でのリスクをカバーできると同時に、対象者の動きをより安全にコントロールできます。

犯人追跡の場面でも同様です。警護員が単独で犯人を追う行為は、一見勇敢に見えますが、もし相手が複数犯であった場合には致命的です。
結果として、犯人の策にまんまと嵌められた「間抜けな警護」という評価になってしまいます。
警護の目的はあくまで”排除ではなく防御”です。追跡よりも、対象者を安全な場所に退避させることが最優先されます。

装備面でも気になる点がありました。女性警護員が履いていた靴がヒール付きのドレスシューズでしたが、これは動きやすさ・安定性の面から避けるべき選択です。
スーツ着用時であっても、ヒールがなく、足にしっかりフィットして脱げにくいタイプの靴が定番です。
特に不測の事態で全力疾走や体当たりが必要になる現場では、一つが生死を分けることもあります。

余談ですが、アメリカの警護業界では“バツがついて一人前”と言われるほど、この仕事はプライベートとの両立が難しい職業です。
警護は対象者のスケジュールに完全に依存しており、自分の休日も予定も存在しません。
恋人や配偶者との約束を守れず、結果として関係が破綻するケースは珍しくありません。
それでも続ける者だけが、この仕事に「覚悟」を持って臨める――それがこの職業の現実です。

もっとも、こうした“ツッコミどころ満載”なドラマであっても、民間警護という職業が一般に知られるきっかけになること自体は非常に意義があります。
実際、こうした作品をきっかけに警護という職業に関心を持ち、志す若者が増えることは業界全体にとっても望ましいことです。
ですから、リアリティが多少犠牲になっても、ぜひ今後も多くの作品で取り上げていただきたいと思います。


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