威嚇射撃

2021年3月22日に富山県で、110番通報で現場に来た警察官がナイフを持った容疑者が警告を聞かず近寄ってきたので威嚇射撃をせずに胸に1発発砲するという事件がありました。胸を撃たれた容疑者は病院に搬送されるが死亡が確認されました。

威嚇射撃をせずに発砲、容疑者が死亡したことで、警察官の拳銃使用が適正だったのかがSNS上で論議されているようです。

以下は、上記の焦点である警察官の拳銃使用についてのガイドラインとなる「警察官等けん銃使用及び取り扱い規範(国家公安委員会規則第7号)、警察法施行令・第13条」の条文です。

【第2章・第6条】

けん銃を撃とうとするときは、けん銃を撃つことを相手に予告するものとする。

ただし、事態が急迫であってて予告するいとまのないとき又は予告することにより相手の違法行為等を誘発するおそれがあると認めるときは、この限りでない。

【第2章・第7条・1】

警察官は、法第7条本文に規定する場合において、多衆を相手にするとき、相手に向けてけん銃を構えても相手が行為を中止しないと認めるときその他威かくのためけん銃を撃つことが相手の行為を制止する手段として適当であると認めるときは、上空その他の安全な方向に向けてけん銃を撃つことができる。

【第2章・第7条・2】

事態が急迫であって威かく射撃をするいとまのないとき、威かく射撃をしても相手が行為を中止しないと認めるとき又は周囲の状況に照らし人に危害を及ぼし、若しくは損害を与えるおそれがあると認めるときは、次条の規定による射撃に先立って威かく射撃をすることを要しない。

規則上は、威嚇射撃は状況によってしないことも認められており、最終的には現場で容疑者と対峙した警察官の判断に委ねられているようです。メディアも視聴者や読者に出来る限り真実を伝えるようにしているとは思いますが、結局のところ、真相は現場にいた本人たちでないと分からない部分が大きいのです。

刃渡り20㎝程度の小振りのナイフが容疑者の武器であったとしても、もし容疑者が特別な訓練を受けていたり、対峙する警察官よりも体格的にかなり優位であったりすれば、それは間違いなくDeadly Weaponです。距離も重要です。極端な例を出すとすれば、容疑者と警察官の間の距離が2,30mあれば、すぐに発砲する必要性はなかったでしょう。しかし、その距離が2,3mであれば威嚇射撃などしている余裕はありません。距離が離れていても、周りに多くの人がいれば、威嚇射撃は無関係な人を巻き込む可能性があるのでしないのが妥当な判断でしょう。メディアでは、ここまで詳細に現場の状況を報じません。そうであれば、現場にいなかった人間がいくら議論しても無意味です。

いきなり致命傷を与える胸ではなく、手や足を狙うべきだったという意見も目にしましたが、これはけん銃を実際に撃ったことがない人の意見でしょう。動く人間の手や足を狙うことは、いくら訓練を積んでいる警察官とはいえ簡単なことではありません。まして都市部であれば、手や足を狙って外してしまえば、無関係な人を巻き込んでしまう可能性すらあります。

最近は、警察官の不祥事が明らかになることも多く、警察への不信感を持っている人も少なくないのかもしれませんが、警察官は市民の安全のために自らの命の危険を顧みず容疑者に対峙しているのです。現場で適切な判断が出来るように相当な訓練も積んでいるわけですから、警察官の判断は信じるべきだと思います。

ちなみに私が勤務していた国連本部警備隊では、威嚇射撃が禁止されていました。口答での警告をしたうえで、それでも聞かない相手で、自分や周りの人の命に差し迫った死の危険があり、他に方法がない場合には容疑者に向かって発砲します(To defend him/herself, other United Nations personnel and/or others against Imminent threat of death or serious injury and there is no other reasonable alternative available)。その際は、手足ではなくCenter Mass(より的が大きく外すリスクが少ない身体の中心部)を狙います。1発撃ち、それでも止まらない場合には2発目を撃ちます。警察や軍に勤めていなくても、オンラインで防弾ベストが簡単に購入できてしまう時代ですから、2発撃っても止まらない場合は防弾ベストなどを着込んでいると判断して、頭部(眉間)を狙って発砲します。また、相手の武器が銃ではなくナイフなどの場合には、骨盤が割れると立てなくなるので、左右の両骨盤を撃つという選択肢もあります。

いろいろ書きましたが、真相は現場で対応した警察官にしか分かりません。仕事だとは言え、人の命を奪ってしまえば、その責任をずっと背負って人生を送るのです。もしかしたら、その警察官自身、他に方法があったのではないかと思い悩んでいるかもしれません。ですから、警察官の発砲で容疑者が死亡したという結果だけで批判せずに、その背景にはどういう状況があったのか想像してみて欲しいと思います。


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