ボディガードのThreat Assessment

日本の4号警備を提供する民間警備会社では、誰がどのようなThreat Assessment(以下「TA」という)を行っているのか存じませんが、プロテクションのレベル決めの際に必要になるのが、TAです。言い方を変えればTAをしないことには何も始まりません。TAは、その任務における指針となるものなので、ボディガードの依頼があったらまず最初にするべきことの1つです。

実際にTAを始める段階になったら、第一にすべきことは、出来る限りの情報取集です。情報量が多いほどより正確なTAの作成が可能となります。クライアントの身の安全のみならず、イメージや評判なども守るボディガードは、一般的にはそんなことまで知らなくても良いと思うような、そしてクライアントが話したがらない情報まで知っておく必要があります。クライアントを不快な気持ちにさせて、仕事を失うことを恐れてセンシティブな情報はあえて調べないというボディガードも一部いるようです。浮気や不倫、違法薬物の使用や、ギャンブル、習慣飲酒、暴言癖などの情報がそれにあたります。幸い、私がこれまで担当してきた警護対象者にはそういった問題がある人はいなかったので大丈夫でしたが、万が一TAを行う上でクライアントが違法行為をしていることを発見してしまった場合、ボディガードは頭を悩ませることになります。

不倫や浮気も決して良くないことです。しかし、不倫や浮気は道徳的に間違った行為ではありますが、犯罪として法律で裁かれることはないため、仕事だと割り切りそのことについては目をつぶるという選択をするボディガードが多いと思われます。

イタリアの元首相シルヴォ・ベルルスコーニ氏のような女性好きが既に周知されているようなクライアントであれば、そこまで悩まずに済むかもしれませんが、浮気や不倫とは無縁の好人物として社会に受け入れられているクライアントであれば、浮気や不倫がばれてしまえば、その打撃は小さくありません。仕事を受けることを決めたボディガードは、嫌でも不倫や浮気がメディアなどに情報漏洩せぬようクライアントに協力をすることになります。

法に反する行為をしているクライアントの場合には、不倫や浮気以上に頭を悩ますことになります。それが仕事であっても犯罪に手を貸すようなことは勿論出来ません。この場合には仕事を降りることが最善な選択になりますが、秘密を知ったことでボディガード自身の身にも危険が及ぶことも十分に考えられます。こうした最悪な状況になることを避ける為にも、直接会う前に出来るだけ依頼人について調べておくことも重要です。

TAにはいろいろな方法がありますが、今回はその土台となるフレームワークを少し紹介します。TAの基本は、ThreatやRiskとなりうる要因を細かく分解し、解析していくことにあります。まずThreatをレベル分けをすることから始めるのが、分かりやすいと思います。ボディガードは、大抵カラーコードなどを使いThreatを3~5段階のレベルに分けます。※「警戒レベルを示すカラーコード」をご参照ください。

次にカテゴリーですが、Threatは主に以下の4つに分類することが出来ます。

  1. クライアントの安全に対するThreat
  2. クライアントの家族の安全に対するThreat
  3. クライアントの心理的幸福に対するThreat
  4. クライアントのプライバシーに対するThreat

Threatによっては、いくつかのカテゴリーにまたがるものもあります。例えば、クライアントの子供を誘拐したという脅迫電話は、カテゴリー2,3,4の3つのカテゴリーにあてはまります。

カテゴライズしたThreatは、下記のような襲撃者がクライアントを標的に選んだ目的や要因で標的を分析し、分類します。

  • クライアントの社会的地位や富
  • クライアントの知名度(著名人でメディア等への露出が多いなど)
  • クライアントの政治思想
  • クライアントの宗教思想
  • クライアントが象徴的存在の場合(会社の会長など)
  • クライアントが特定の地域に行く/住む

Threatの種類も分類が出来ると、どのような警護・警備体制を敷くべきなのか判断しやすくなります。Threatの種類は、クライアントのライフパターンを知ることで割り出すことが出来たり、脅迫電話や脅迫状において襲撃者側が目的と一緒にどのようなことを起こすと明らかにしたことで分かる場合があります。以下は、主に考えられるThreatの種類です。

  • Verbal assault、(口頭による)誹謗中傷によるThreat
  • 物を投げつける行為によるThreat
  • ゴルフクラブやバットといった物を使用した殴打によるThreat
  • ナイフなどの鋭利な武器によるThreat
  • 改造銃を含む銃器によるThreat
  • 車をつかった攻撃によるThreat
  • 爆弾などの爆発物によるThreat
  • 生物兵器や化学兵器によるThreat
  • 誘拐によるThreat

Threatの種類を特定後は、Potential Attackersを絞ります。下記のリストは、ポテンシャル・アタッカーズの参考例です。

  • 精神障害
  • ストーカー
  • 職場に不満を持つ者や求職者
  • 個人的な復讐
  • 犯罪者
  • テロリスト
  • ヤクザ
  • 外国の諜報機関 (ex. 北朝鮮)
  • 金銭が目的の誘拐犯
  • 注目を浴びたい欲望

TAは一度で終わりではなく、任務期間中は常に情報収取に努めアップデートされていなければなりません。ストーカー犯が逮捕後、刑務所に数年間収監されたり、精神病院に入院させられた場合には、Threat Scaleは低下します。しかし、裁判でその犯行が立証できず投獄されずに釈放された場合には、復讐心などもプラスされることが容易に想像できるため、Threat Scaleは当然上昇します。

上記に加えて、TAにはクライアント・インタビューで得たクライアントの健康状況にも考慮すべき事案があれば明記しておく必要があります。下記のリストは、その参考例です。

  • 心臓疾患
  • アレルギー
  • 糖尿病
  • 過去のケガや手術 (ex. 膝のケガが原因となって、転びやすくなったりする場合がある為)。

他にもクライアントが危険を伴う趣味を持っている場合は、そのこともTAに加えておく必要があります。下記のリストは、危険を伴う趣味の参考例です。

  • クレー射撃や狩猟
  • スキーやスノーボード
  • 乗馬
  • プライベートジェットの操縦
  • スカイダイビング
  • スキューバ―ダイビング
  • 登山
  • オートバイ

以上は、TAのほんの一部です。ボディガードになってすぐに、詳細なTAのレポートの作成をすることは難しいでしょう。所属先によって、TAのやり方も異なりますので、最初は所属先の先輩が作成した過去のTAをよく読み込むことで、その所属先がどのようなスタイルのレポートを制作して、どのようなことを求めているのかが分かるようになります。

ニューヨーク国連本部では、TAを行う専門家がおり、オペレーターはその専門家が出したTAを参考に警護プランを作成していました。もしかしたら民間警備会社でも同じように、オペレーターがTAを作成することはほとんどないかもしれません。しかし、TAを作成する必要がなかったとしても警護をする上でTAを分かっていければ、しっかりとした警護は出来ませんので、専門家が作るTAを軽視せずによく読み込み勉強することがとても重要です。


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