Wicklander-Zulawski社(以下「WZ」という)の「Level 1 – Investigative Interviewing Techniques(以下「IIT」という)を受講しました。こちらのコースは、対面のクラスもありますがアメリカの会社の為、基本的にクラスはアメリカで行われているので、日本在住者ならオンラインコースを選択する事になるでしょう。筆者は、アメリカ中西部時間のコースを選択したので日本時間午前0時30分から午前7時30分を2日間というスケジュールでした。
こちらのコース、コース終了後にCertificationが発行されますがテスト等はなく、きちんと出席さえしていれば誰でも取れる、どちらかというと日本でよく見られるタイプの資格となっています。そのため、より本格的な資格取得を目指す方は、International Association of Interviewers(以下「IAI」という)」が主催するCertified Forensic Interviewer(以下「CFI」という)の取得を考えた方が良いようです。実際、WZのIITコースの最初に、この業界への最初の一歩的やきっかけになるような位置付けのコースだと説明されています。※WZのIITを修了するとIAIの1年間無料会員権が貰えます。IAIのサイトには、会員用の無料のコースもいくつかあるのでCFIを取得する、しないに関係なく、せっかくなので加入しておいた方が良いでしょう。
オンラインのコースでは出欠確認の理由で、常時ビデオをオンにして参加する事になります。最後の試験がなく、参加さえすれば誰でも取れるところは日本の資格に似ていますが、大きく異なる点が1点、それはアメリカではよくある参加型のコースで、生徒には積極的な発言が求められる点です。ただ、発言を全くしなくても出席さえしていれば一応資格は貰えます。就職のために資格欄を充実させたいといった理由で、とにかく資格だけ欲しいというのなら、そういう参加の仕方もありかもしれませんが、かなり居心地が悪いと思います。また、筆者は現在お世話になっている会社から受けるように指示され、受講したので自身で支払っていませんが、こちらのコースはUSD585となかなか高額なクラスなのでボケっと受けるのでは少々勿体ないと思います。
WZは、1982年にアメリカ・シカゴでDoug WicklanderとDave Zulawskiによって立ち上げられたインタビューテクニック、そして嘘発見器のオペレーターを教育する会社です。筆者は最近まで知らなかったのですが、アメリカの警察機関に指導した実績が多くあるようです。現在は、警察機関に指導をする傍ら、コーポレートセキュリティの人材育成も積極的に行なっているようです。
今回筆者が受講したコースもコーポレートセキュリティ向けのコースでしたので、警察官を対象にしたコースとは異なり、特に受講の際に条件等は設けられておらず誰でも受けられるようになっています。筆者が取ったコースは、参加者が40名ほどいたのですが、そのうちの8割がAmazonのロスプリベンションの方々でした。Nikeのロスプリベンションの方やその他誰でも知る会社の人たちばかりだったので、アメリカではかなり支持されているコースのようです。ロスプリベンション以外にも、近年日本でも多く見られるハラスメントのケース等で被害者、加害者の話を聞く人事の方などにも推奨されているようです。
筆者は、国連時代にLaw Enforcement(以下「LE」という)向けのインタビューテクニックのクラスは取ったことがあるのですが、強制力を持たないコーポレート向けのインタビューのクラスは初めてだったので、色々学ぶものがありました。
LEの場合、話を聞き出そうと意図的に高圧的な態度で接する場合もありますが、強制力を持たないコーポレートがそれをしてしまっては、衝突や対立を生むだけで、得られる情報は多くありません。
WZのIITのコースで最も重要視されているのが、いかにConfrontationを減らすかです。衝突や対立を減らすことで、話を聞く側にも聞かれる側にもリスクがなく、より効果的な聞き取りが可能となるのです。このコースでは、Confrontationを減らす為のインタビュールームの配置に始まり、18ステップに細分化したWZメソッドという手法を習うことが出来ます。因みに加害者だと思われる人物のインビューをする際のインタビュールームは、逃げられないように相手の席を部屋の奥に配置しがちですが、強制力がある警察ではないので、相手にいつでも退室出来るという安心感を与え、答えを引き出しやすくする為に敢えてドアに近い方に相手の席をセットするなど、なかなか興味深い内容でした。
有料のIITの内容をここで全て紹介してしまっては他に585ドルを支払ってコースに参加した方々に申し訳ないので書くことは出来ませんが、簡単に言うとWZメソッドは、Empathy statementとBehavior cognition の2本軸となっています。
「Agree(同意)」と「Empathy(共感)」を混同してしまう方が意外に多いのですが、公平なジャッジを下す為にもインタビュアーとして「同意」をすることは絶対に避けるべきです。ただ相手にガードを下げさせこちらが望む答えを得る為には、相手の言い分に共感や同調をすることが有効的です。昔の刑事ドラマでよく見られたカツ丼を出し、「お前も大変だったなぁ」といつも厳しい刑事が優しい声で肩に手を置くあれも、いわゆるEmpathy Statementの一種です。ただインタビュアーが望む答えを引き出す為に「誘導」してはいけません。以前は、インタビュールームに資料を持ち込むことで、相手に情報はもう既に握っているので吐けと無言でプレッシャーをかける時代もあったようですが、こうしたやり方は現在では認められていません。
Behavior Cognitionは、筆者が現役時代に使っていた手法を以前紹介しているので興味がある方はこちらもお読みください。今回のコースでは、生徒の中から1人ボランティアを募り、残りの参加者は、そのボランティアの1名に最近本当に行った休暇先のことを問います。その後、同じボランティアには、実際には行ったことがない場所をインストラクターから告げられるので同様にまた参加者からの質問に答えさせます。この2つのインタビューを通して、真実を答えている時と嘘をついている時にどのような違いがあったかを参加者全員で話し合うことで嘘をつく際の傾向を掴むテクニックを習います。特殊な訓練を受け、真実を答えている時と全く変わらず平気で嘘をつくことが出来る人もいますが、大概の場合にはしばらく話をしているうちに癖がつかめるようになります。因みにコースでボランティアを務めた方は、嘘をついている時には、「Ah…Ah」と言葉に詰まることが多くなることと、鼻を手でタッチすることが多くなる人でした。今回の人は違いましたが、目が泳ぐ人も結構います。
無駄な衝突や対立を回避し、信用出来る情報を聞き出すテクニックは、ロスプリベンションや人事だけでなく、強制力を持たずに警護を行う4号警備従事者やアドバンスの際にも間違いなく役立つはずです。特に日本の民間警護従事者は、警察とは違い強制力がない分、高いコミニュケーションが求められるのに、多くの警護スクールはお金儲けの為により生徒が集まるCQBやガンハンドリングといった正直日本の民間警護ではほぼ使う事がない派手な部分ばかり教えて、こうした大事な、そしてコアとなるテクニックを教えていません。先日もたまたま某警護学校の卒業生だと言う“自称”ボディガードの方と話す機会がありましたが、驚くほどコミュニケーション能力に乏しく、筆者は彼がボディガードをしている姿を思い浮かべることが出来ませんでした。
WZの講義の中でも言われましたが、コースや資格は何かを始めるきっかけに過ぎません。つまり、ボディガードスクールを卒業して、何の効力もない玩具同然のバッジを貰っただけではボディガードとは言えないのです。実践経験を積みながら、向上心を持ち様々な知識や能力を習得していく必要があります。一見警護とは全く関係ないように見えるこうしたコースも、取っておくことで、他と違いを生み、武器となります。時間帯が日本の真夜中なのは確かに大変ですが、日中仕事があるという方も、眠気と戦う覚悟があれば参加できるコースだとも言えます。ただボーと資格取得だけの為に受講するには勿体ないコースですが、しっかり目的を持ち積極的にクラスに参加出来るようであればオススメのコースです。
カテゴリー
投稿一覧は、こちら