ヨルダンのアドバンスをした際に、現地コーディネーターに、「ロイヤルパレスの下見は絶対に許されないので行くだけ時間の無駄です」と言われました。ロイヤルパレスは、その国で一番で警備、警護が厳しい場所であるはずですし、その国の王が住むところなので、ヨルダンに限らずアドバンスが出来ないことはよくあることです。皇室がある日本もそうです。2017年にも当時のアメリカ大統領トランプ氏の訪日の際に、警護を担当するシークレットサービスによる天皇御所への事前立ち入り検査(アドバンス)を日本側が拒否したことがニュースになったことがあります。
私も王宮の中にまで入れるとは最初から思っていませんでしたが、アドバンスとして中に入れないから行かないという選択肢はありません。頑張ってもどうにもならないこともありますが、出来る限りのことをする努力は必要です。
王宮のチェックポイントに到着し、ダメ元でロイヤルガードに話かけようと車から降りゲートに近づくとゲートの奥から誰かが走ってきたのです。しまった!怪しいアジア人が迷いこんだとでも思われてしまったかなと思っていると、その男性は私にいきなりハグをしてきたのです!!
いきなりハグをされたのでビックリしましたが、その男性の顔を見たら見覚えがありました。私はヨルダンに行く数週間前に韓国の海雲台に行っていたのですが、彼もヨルダンの女王の警護で海雲台に来ており、なんと私たちは同じホテルに滞在していたのです。
警備室の監視カメラで私を見つけて駆けつけてくれた彼に「こんなところで何をしているんだい?」と聞かれたので、アドバンスをしに来たことを告げたところ、「ダメだ!俺についてこい」と言われました。そして、小さな部屋に案内され「チャイにするか?それともコーヒーか?」と聞かれたので、王宮内をアドバンス出来ないことに気をつかっていると勘違いをした私は「そんなに気をつかってくれなくて大丈夫です。王宮が安全なのはわかっているからアドバンスはあきらめる」と伝えました。しかし、その男はとにかくどちらかを選ぶように促すので、仕方なくチャイをお願いしました。数分後、チャイとバクラバが出てきたので有難く頂戴し、チャイも飲み干し、改めて再会できたことの喜びと、心づかいに感謝の言葉を伝え去ろうとした私に、彼は、「一緒にチャイを飲み、バクラバを食べたあなたは私のゲストです」と言いました。さらに続けて「幸い王は王宮にいないので、私のゲストであるあなたを案内しましょう!」と言ってくれました。
彼のおかげで、私は通常であれば難しい王宮内のアドバンスもしっかり出来たのです。これには、アドバンスレポートを送った同僚たちもビックリしていました。
しかも、彼のホスピタリティはこれだけでは終わらず、本番の日はクライアントを待っている間に私と私の同僚たちに昼食まで用意してくれていました。
なぜこんな話を書いたかと言いますと、なんでもオンラインでパッと出来る便利な世の中になったことで、コミュニケーションスキルが低下傾向にあるように感じているからです。
コミュニケーションスキルは、うまく話せるというだけでなく、人とのつながりを大事にすることや、人の好意に感謝することも含まれていると私は思っています。
国連本部の警護隊に所属した約10年で60以上の国に行きました。そのほとんどが1週間程度の滞在ですが、特にアドバンスをした国で知り合った人たちとは今でも連絡を取り合っています。もし私が今後、どこかの国に警護に行くことになれば、その人たちに連絡を取り最新の情報を得ることも、多大なサポートも得ることも出来るでしょう。もちろん、反対に彼らが日本に来るとなれば、私も最大限のサポートをするつもりです。
人それぞれ考え方があるので、絶対にしろとは言いませんが、些細なことであっても人に何かしてもらったときには、すなおに感謝の気持ちを伝え、長くその関係を続けられるようにするべきだと私は思っています。特に顔が見えないオンラインでは、オフラインよりも気をつかうべきでしょう。
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