秘書やその他の随行員がおらず、いつも単体で行動をするクライアントであれば車列はとてもシンプルで悩むことはありません。国内の近距離の移動であれば、秘書や随員が多くても車列に乗り切れない人には車列とは別に目的地に行ってもらいます。車列に乗り込む人の数が多くなればなるほど出発までにかかる時間が長くなるので、脅威レベルやエンバスの場所にもよりますが基本は出来るだけ最小限の人数に絞ることが好ましいです。海外などで、現地の治安が良くない、現地の地理に詳しくないうえに言葉も通じないといった理由から、随員に車列とは別に先着してもらうことは難しい場合もあります。その際は、クライアントが車に乗り込む場所とは別に随員のみが車列に乗り込む場所と時間を設定して、随員に先に車列に乗り込んでいてもらい、その後最終的にクライアントが別に準備した場所で車列に乗り込むといった対応をしなければならないこともあるかと思います。随員とクライアントが車列に乗り込む場所を変えるのは、出来るだけクライアントのエンバスのポイントを特定されたくないという理由からです。車列が長時間同じ場所に待機していると、サーベイランスなどをしていればクライアントがどこから車列に乗るか比較的簡単に特定することが出来ます。
随員が多い場合には、当然車列に連なる車の数も多くなります。全車両が異なるようであれば、「A氏は白のハイエース、B氏は、黒のヴェルファイア…」といったように車種で伝えることも可能です。しかし、皆が車に詳しいわけではなく、ハイエースやヴェルファイアと車種を言われても区別がつかない人が必ずいます。車列に使われる車は、大抵の場合、白か黒なので色による区別も難しいです。そのため、随員車のフロンドガラスとリヤウィンドウには番号や記号などを貼っておきます。「A氏は3番の車、B氏は5番の車… 」や「A氏は★、B氏は◎… 」と伝えれば、車に詳しくない人でも楽に車の判別が出来ます。国際会議などで他にも似たような車列がある場合には、脅威レベルが低ければ国名や組織名を番号や記号と一緒に記載しておくと良いでしょう。そんな面倒なことをしなくても、どの車に乗るかは随員各自に任せればよいと思う人もいるでしょう。一度海外で試してみたことがあるのですが、事前に乗る車を決められているときよりも全員が乗り込むまでに倍以上の時間がかかりました。遅れが出る理由は、席があっても、先に乗車している人と一緒に乗りたくないなど理由は様々です。プロトコールオーダーなども考慮したうえで事前に席順などが決められている方が悩まずにサッと乗り込むことが出来るようです。クライアントが乗る車(以後「VC」)に関しては、ボディガードは車種とナンバープレートを必ず覚えておく必要があります。これはVCに使われる車種は限られている為、VIPが多く参加する国際会議などでは似たような車が多くある際に迷わない為の対策です。警護のことを理解していない人にときどきいるのですが、VCの前後など陣取るセキュリティ車(以下「SC」)に乗りたいと言う人がいますが、SCにはたとえ席に余裕があったとしても絶対にボディガード以外は乗せません!極端な話をすれば、SCはVCを護る為、必要であれば自ら危険にところに突っ込む為、訓練を受けていない人が乗るのには危険すぎるからです。他にもVCに何かトラブルがあった際には、クライアントをSCに乗せることもある為です。
国際会議のこと書きましたが、日本は防弾車の数が十分でない為に大勢のVIPの参加が予定されるイベントでは海外から一時的に防弾車をレンタルすることがあります。海外(大抵はメルセデス・ベンツがあるドイツ)から取り寄せた防弾車両は当然左ハンドルのことが多く、右ハンドルで左車線の日本では、左ハンドル車を使うと、アンオーソドックス(Unorthodox)やアンコンベンショナル(Unconventional)ドロップオフになることが多くなります。
警護対象であるクライアントは、通常助手席の後ろの席に乗せます。これは万が一の際に、助手席に座るPPOが最短でクライアントに接触することが出来るためです。アンオーソドックス/アンコンベンショナル・ドロップオフとは、目的地の入り口が運転手側のドアに近いときのことを言います。クライアントは、目的地に入るのに車の後ろをグルリと周らないといけない為、理想な形とは言えません。そのため、脅威レベルが低い場合には、あえてクライアントを運転手の後ろの席に乗せることがあります。これは以前書いたRobert L. Oatman氏が提唱するボディガードの基本6カ条の1つ「セキュリティ vs. コンビニエンス(便宜)」」にあたります。十分リスクアナリシスを行った上で、リスクよりも便宜を選ぶというのであれば、仕方がありません。クライアントがスカートだったり足を大きく開けない状況であれば無理ですが、到着時に車の中でサッとクライアントに席を変えてもらうという方法もあります。
アンオーソドックス/アンコンベンショナル・ドロップオフの際、VCの後方に陣取るSCは、通常よりもクライアントが座る側のドアをカバーする形で車を止めます。VCのドアは、クライアントが建物の中に入り安全確認後PPOからOKのサインが出るまで開けたままにしています。これは車に戻ることになってもドアを開けるという手間が省け、車の中にそのままダイブ出来るからなのですが、アンオーソドックス/アンコンベンショナルドロップオフの際には、助手席後ろのドアはクライアントが出たらPPOはそのドアをすぐに閉め、車の後ろを周りこむ際にサッと代わりに運転手側の後方のドアを開けておくようにします。
車列だけに限らず、ボディガードの仕事は全てリスク・リダクション(リスクの軽減)なので、100%の正解がないので考えられる対策を常に施します。私の前職では、警護チームに配属されると1年で5歳は歳を取る、白髪が多くなるなんて言われていました。つまり脳みそまで筋肉では務まらない仕事ということです。日本人は、
言葉で言わなくても相手の気持ちを感じることに長けた人種なので、ボディガードには適していると私は思っています。ただ残念なことに、映画やドラマの中のボディガードはどうしても派手な格闘シーンなどのアクションばかりに焦点が当てられるために、せっかくボディガードという仕事に興味を持っても腕っぷしの強ささえあれば良いと勘違いしてしまっている人もいるかもしれません。しかし、日本人が海外で活躍できるボディガードになるには、腕っぷしよりもむしろ頭脳や気遣いなどが求めれています。
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