Book Review 「気がつけば警備員になっていた。」

笠倉出版、堀田孝之著「気がつけば警備員になっていた。」は、警備業という職種を内側から描いた点において、同種の業界本の中でも異質なリアリティを持つ一冊である。著者である堀田孝之は、もともと編集職を志向し、一定の文章経験を持つ背景から、現場の描写において無駄な脚色を排しつつも、読者に強い印象を残す語り口を成立させている。この「書ける人間が書いた警備員像」という点が、本書の評価を一段引き上げている。

まず前提として、本書に登場する警備員像は決して称賛されるべきものではない。むしろ職業倫理の欠如、当事者意識の欠落、さらには業務への軽視といった問題行動が散見される。しかし、重要なのはそこではない。問題は「それが完全なフィクションとして切り捨てられない現実性を持っている」という点にある。

前回Book Reviewをさせていただいた「誤解だらけの警備員という仕事」は、業務の意義や制度的側面を整理するという意味で一定の価値を持つが、現場の“温度”までは十分に伝えていない。その点、本書はむしろ逆であり、「なりたくてなったわけではない職業」「どこか後ろめたさを抱えながら従事する仕事」という、多くの現場警備員が内心抱えているであろう感覚を露骨なまでに描写している。

実務的観点から見れば、この心理状態は極めて重大なリスク要因である。警備とは本来、deterrence(抑止)とresponse(対応)を担保する職能であり、その基盤は個々の警備員が持つセキュリティ・マインドセットに依存する。しかし、本書に描かれるような「時間を潰すだけの業務」「指示されたこと“だけ”を最低限こなす」という姿勢は、抑止力を著しく毀損する。第三者から見れば、その存在は“いてもいなくても同じ”と評価され、結果としてセキュリティの存在意義そのものが希薄化する。

さらに深刻なのは、著者自身が語る「職業を問われた際に答えられない」「警備員であることに対する羞恥」という意識である。これは単なる個人の問題ではなく、日本の警備業界に広く存在する構造的課題を示唆している。すなわち、職業としてのアイデンティティが確立されていない状態である。この状態では、専門職としての成長や責任感の醸成は期待できない。

一方で、本書の中でも看過できないのが、勤務中の飲酒という明確な規律違反である。これはどのような事情があろうと許容されるものではなく、個人の問題を超えて現場管理の破綻を意味する。セキュリティの現場においては、単一の逸脱行為が致命的なインシデントに直結するため、この種の行為を黙認する文化が存在するのであれば、それはもはや“業務”ではなく“リスクそのもの”である。

総括すると、本書は「優れた警備員の姿」を描いたものではない。しかし、現実の警備業界に一定数存在するであろう層を、極めて率直に、かつ具体的に描写した点において、資料的価値は高い。むしろ本書が突きつけているのは、「なぜ警備員は社会から底辺と見なされるのか」という問いに対する、極めて不都合だが本質的な答えである。

警備という職業の評価は、制度や装備ではなく、最終的には“人”によって決定される。本書に描かれるような姿勢が多数派である限り、その評価が変わることはない。逆に言えば、この現実を直視し、職業意識と専門性を再構築できるかどうかが、今後の警備業界の分水嶺となるだろう。


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