国連本部で警護官をしていたと話すと、高確率で国連本部ではどんな格闘術や護身術を学んだかを聞かれます。国連本部警備部(United Nation Department of Safety and Security)所属で警備・警護の任務にあたる者は、Tony Blauer氏が考案したS.P.E.A.R. System、PR-24(伸ばすと24インチになる特殊警棒)を使った打撃術、逮捕術などを学びます。2015年からは新たにGracie Survival Tactics (G.S.T.) がこのリストに加わりました。G.S.T.のGracie(グレイシー)は、日本でも格闘技ファンには馴染み深い名前です。ブラジルの地でコンデ・コマこと前田光世より柔術を学び、総合格闘技Ultimate Fighting Championship (UFC) の創成期を支えたあのグレイシー一族のことです。
183㎝、80キロと無差別級では決して大きいとは言えない体格のホイス・グレイシーが、UFCの第1回大会、第2回大会と連覇したことで、体格で勝る相手に対してもグレイシー柔術が有効であると認められました。そして、そこに興味を持ったアメリカ軍が、ホイス・グレイシーの兄でUFCの共同創立者でもあるホリオン・グレイシーに依頼し、ミリタリー用に改良が加えられたGracie Combativeが生まれました。その後、警察機関の為に更にアレンジが加えられたG.R.A.P.L.E. (Gracie Resisting Attack Procedures for Law Enforcement) が完成し、FBIやシークレットサービスで取り入れられました。
近年、警察による行き過ぎた行為(Police Brutality)がアメリカでは問題になっています。そこで、ホリオン・グレイシーの息子であるヒーロン・グレイシー氏とヘナー・グレイシー氏が中心となり、警察向けにより効果的でありながら、だれでも簡単に習得可能、その上裁判になった際も正当性が認められる(Court-Defensible)ようにG.R.A.P.L.Eを改良したものがG.S.T.です。
ニューヨークのUNDSSでは、2015年12月にヘナー・グレイシー氏とヒーロン・グレイシー氏を招聘しG.S.T.を指導してもらいました。このことは、ブランジリアン柔術の新聞「Jiu-Jitsu Time」でも紹介されています。残念ながら、私はその際、海外出張中で直接習うことは出来ませんでしたが、後日2名から直接手ほどきを受けたUNDSSのトレーニング・ユニットのインストラクターより技術を学びました。
日本には、ブラジリアン柔術だけなく優れた武道、格闘技、護身術を習える教室が多く存在し、海外にも負けない優秀な指導者が多くいます。このような恵まれた土壌が既にあるので、社員教育にまだG.S.T.のようなサバイバルテクニックを取り入れていない警備会社は、外部から優れた指導者を招き、社員のスキルアップに繋げてほしいと思います。もちろん、警備業法15条において警備員には警察のような特別な権限は与えられていません。そのためこういった指導は無駄だと言う人もいますが、社員の自信と危機管理意識を高めるのに役立ちますし、さらに言えば、ただ立っているだけの所謂「警備員もどき」から脱皮し、プロ意識をもった警備員へ飛躍する手助けにもなると思います。
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