車列のコントロール

車列と言っても、クライアントによってその台数は異なり、台数が異なれば車列のコントロールの仕方も変わってきます。ただ1つだけ変わらないのが、車列のスピードを決めるのは、クライアントが乗る車両(以下「VC」)だと言うことです。もちろん、VCを後ろから護る警護車両(以下「S1」)と密なコミュニケーションにより判断に必要な情報を全て得ることが前提です。

 VCの前を走る車両は、バックミラーでVCの走りを確認しながら走ります。VCがスピードを上げ、後ろにピタッと必要以上に距離を詰めた場合にはスピードを上げ、逆にVCとの距離が必要以上に開いてしまった場合にはスピードを下げ最適な車間距離を保つようにします。

 アメリカ大統領や総理大臣の車列であれば、一時的な交通封鎖や、信号機をコントロールするなどしてノンストップでの走行が可能なので、VCの走行スピードの決定は目的地に着く時間のみで済みます。エクスポージャータイム(Exposure Time/ET =露出時間)が減るのに比例して標的となるリスクも減ります。そのため、自宅やオフィスに向かうのであれば高速走行で出来るだけ早く目的地に着くことがセキュリティ的には好ましいのです。しかし、相手がいる場合には、目的地に早く着きすぎては儀礼的には宜しくありません。最適な到着時間は、文化にもよっても異なりますし、クライアントと先方との関係性によっても変わってきます。クライアントの希望も考慮し、VCは目的地に最適な時間に到着できるように計算してスピードを決めます。ゆっくり目に走行しても予定よりも早く目的地に着いてしまった場合には、目的地周辺を周るなどして時間調整をすることも可能ですが、それを好まないクライアントがいることも知っておくべきです。早過ぎず、遅すぎず、丁度良い時間に到着することはVC/PPOの腕の見せ所です。

 ETを極力減らす為には、車の走行を出来るだけ止めないこともポイントとなります。クライアントへの脅威がさほどでもない場合や、民間警護の多くの場合には交通法規に従いながら車列をうまくコントロールしなければならない為、その分総理や大統領の車列とは異なった難しさがあります。

VCとS1は車列の長さを良く把握する必要があります。例えば、青信号が点滅を始めたとします。2,3台の車列であれば、速度を少し早めるなどして通過してしまうべきでしょう。しかし、もっと長い車列の場合には、スピードを考えていないで運転していると信号によって車列が2つに分断されてしまいます。考え方は色々あって、大きな車列であっても全てがセキュリティパッケージ(警護対象)ではなく、後方の車を気にしないでよいのならば、車列が分断してもすることを承知で通過します。通過できた車列の速度を落とし、信号で止められてしまった車両が青信号になったらすぐに追いつけるようにするといった対処の仕方もあります。クライアントの脅威レベルが、信号での一時停止ぐらいであれば気にするほどでもない場合には、車列の全車両が一緒に通過できる次の青信号まで待つという対応をします。

 一度停止してしまうとスピードにのるまでに時間がかかる車重量が重いトラックのドライバーは出来るだけブレーキを踏まずアクセルによる速度コントロールで極力信号に引っかからないように走ると聞いたことがあります。車列をコンロールする場合は、車列の全車両を1台の大きなトラック(警護では度々「1パッケージ」と表現します)だとイメージすると適格なコンロールがしやすくなります。

警護の基礎知識がない人から見るとただ早く走れば良いと思われがちな警護車列ですが、シチュエーションに合った運転が求められるため、見ているよりもずっと難易度が高いのです。警護車両をコントロールする技術は、奥深く一朝一夕では身につきません。それもVCに乗るPPOが車列のスピードをコンロールする理由の1つでもあります。弊社のCCPS/CCPS-Wでも車列のコロールの基礎を教授致しますが、訓練だけでは十分ではありません。この技術ばかりは、実際に経験を積むことでしか身に着けることが出来ませんので、CCPS/CCPS-Wを受講して頂いた後はぜひ実際に警護の世界に足を踏み込み、経験を積んで欲しいと思っております。


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