ボディガードといえば、耳のコイルチューブとスーツの襟に輝く徽章をイメージする人が多いと思います。拳銃を携帯した警護をしているボディガードは、通常バッジを腰に装備した拳銃の前につけています。これは、もし銃を使用する際にスーツのジャケットをサッとめくり相手にバッジが見えることで何者かを認識させる目的があります。腰に銃やその他の武器を携帯したボディガードは、それを隠す為にどんなに暑い夏の日でもジャケットを脱ぐことが出来ません。仲間かそうでないか識別する際にはバッジを見るのが一番ですが、公共の場で度々ジャケットをめくって銃やその他の武器を一般の目にさらすわけもいかないので、バッジの代わりに識別のため徽章(ラペルピン)を背広の襟につけます。
アメリカでは、セキュリティ関係の訓練学校等で卒業生に卒業の証としてピンを配るところがありますが、このピンとボディガードの徽章は根本的に違います。身分や職業などを表すという点では、弁護士徽章(俗にいう弁護士バッジ)や社章とは同じですが、弁護士徽章や社章は基本1種類でみんなが同じものをつけるのに対してボディガードの徽章は、偽造される恐れを考慮し、異なった形や色のピンがいくつか用意されています。そして任務毎に異なる徽章を使用することにより、偽造した徽章で部外者が紛れ込むリスクを軽減しています。なお当日つける徽章の発表は情報漏洩対策で出来るだけ直前まで行われません。大規模なミッションになると、警備用語では「Defense in depth」と呼ばれる何重ものセキュリティのレイヤー(Layer of Security)で、対象者や対象物を護ります。レイヤー毎に、徽章の色を異なる物に変えることで、同業者であってもどのポジションをしている人なのか一目で判別可能になります。拳銃等で武装したボディガードとそうでないボディガードの区別として徽章を利用することもあります。警視庁警備部警護課のSPというとドラマの影響もあり赤いSPの徽章をしているイメージが強いかもしれません。しかし、私もSPに関してはそこまで詳しくありませんが、聞くところによるとやはり色々なバリエーションがあるようです。
VIPが多数集まる国際会議などでは、当然いくつもの異なる機関の警護官が大勢集まることになります。その際には、主催者が警護官に識別用の特別なピンを渡たす場合もあります。たまにテレビなどに映る警護官のスーツの襟に複数のピンが付いていることがありますが、これは所属先の徽章と会議の識別ピンを付けているからです。
ボディガードの徽章は、警備、警護上とても大事な役割を持つため、紛失等をした場合には、すぐに統括に連絡をします。場合によってはチーム全体の徽章を全て交換という事態になることもあります。それだけ大事な徽章なので国連本部の警護チームでは紛失した場合には上から叱られるだけなく、始末書を書かされ、その記録は3年間残ります。そして私のように退職をしたものや警護の任から退いたものは速やかに徽章の返却が義務づけられています。
小規模な警護の場合、徽章を使うことはないかもしれませんが、警護業に従事する上で知っておいて損はない知識です。
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