プロ意識を持ってボディガードをしていない者は、停車位置について深く考えることはないでしょう。しかし、ボディガードもサービス業なので、特に他と差別化を図る為にはクライアントの身の安全を護ることは当然ながら、細やかな心配りも求められます。
停車位置と言っても、車種によってもその位置取りは異なります。警護に使われる車両は、セダン車とSUV車の2種類が一般的です。この2種において、決定的な違いは車高です。 SUV車の特長は、悪路の走破性能を高めるためにロード・クリアランス(最低地上高)を高く設定しているところです。
一般的なセダン車の最低地上高は130㎜ほどとなっています。因みに日本では、最低でも最低地上高が90㎜ないと車検に通りません。最近では、C-HRのようなSUVの特性を持ちながらも、街乗りに重点を置き最低地上高をセダン車とそれほど変わらない140㎜~150㎜程度まで下げたSUVも増えてきました。しかし、シボレー・サバーバンやトヨタ・ランドクルーザーなど警護でよく使われるSUV車は200㎜以上のものばかりです。シークレット・サービスやニューヨークの国連本部警護チームでも使用しているサバーバンに関しては、最低地上高が266㎜もあります。このように車高が高いSUVを警護で良く利用する理由は、このブログの読者の方なら想像がつくと思いますが、「ハイグランドの優位性」です。車高が高ければ、車高の低い車よりも見通しが良いので渋滞などでも前方の状況を察知しやすくなります。
この車種の違いによる最低地上高の違いは、クライアントの乗り降りの際に多少影響が出ます。高齢のクライアントや足腰に問題があるクライアントには、最低地上高が高いSUVは乗り込みにくいと嫌う人も少なくありません。国連本部警護チームでは、基本クライアントが乗る車両にはセダン車を、そしてサバーバンなどのSUV車は警護車に利用しています。しかし、雪の日や未舗装路を走る予定がある日には、クライアントが乗車する車両にもSUV車を使用していました。
歩道等に設ける縁石の車道面に対する高さは15㎝が標準とされています。ドロップオフサイト/ピックアップサイトに縁石がある場合には、縁石の高さを利用しない手はありません。最低地上高が120~130㎜のセダン車の場合、縁石にギリギリまで寄せて停車してしまうと、縁石とドアシルに高さの差がなく踏ん張りにくく、特に高齢者や膝や腰に問題がある人にとって下車が困難になります。そのため、セダン車の場合には、縁石から40㎝~50㎝程度離して停車した方がクライアントも下車しやすく親切です。後方の警護車両が護っているとはいえ、あまりに縁石から距離を置いて停車すると側面から追突されるリスクもありますので、適切な距離を見極めることがボディガードには求められます。SUV車の場合には、セダン車とは逆に縁石ギリギリまで寄せて停車することで、縁石の高さが上手い具合に作用して下りるのにちょうどよい高さとなります。
ただ雨の日や、ドロップオフサイト/ピックアップサイトの車道面のコンディションがあまり良くない場合には停車位置を考え直す必要があります。日本の道路は、とても良く計算されたうえで作られており、大雨でも道に水が溜まってしまうようなことはあまり起きません。しかし、海外に目を向けると、ニューヨークシティですらちょっとした雨でも冠水し道路に大きな水たまりが出来てしまっている光景はそれほど珍しいことではありません。もしドロップオフサイト/ピックアップサイトに大きな水たまりが出来てしまっている場合には、セダン車であっても縁石に出来るだけ寄せて停車をした方が、クライアントが下車の際に間違って足をドボンと水たまりにつけてしまうリスクが減ります。特に夜間は、足元が暗くて見にくくなっていますから、このような対応もあることを頭の中に入れておく必要があります。
ピックアップの際には、何度かやり直すチャンスがありますが、ドロップオフの際には1発で最適の場所に車を停車させる必要があるので、ドライバーは車幅感覚を磨いておくことを奨励します。停車位置が毎回バラバラで一貫性がないようでは、“プロ”のボディガードとは言えません。
なおこのような気づかいはきちんとした危機管理があったうえでのサービスなので、サービスばかりに頭がいってしまって、危機管理がおろそかになるようでもいけません。万が一のことを想定して、停車位置は常に方向転換してその場から脱出する等、なんらかのマヌーバーが出来るような場所を選びます。間違っても周りを堀や他の住居などで囲まれている「どん詰まり」のような場所を選ぶようなことはないようにしてください。
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