Embus/Debus時のギア・ポジション

Enbus/Debusに関して必ず議論になるのが、警護車両の停車時のギアのポジションです。オートマ車ならパーキングにするべきなのか、ドライブのままで良いのか、マニュアル車なら、1速に入れておくべきなのか、それともニュートラルに入れるのかということです。言葉を変えればフットブレーキだけで、ギアはすぐに発進出来る状態にしておくのか、それともフットブレーキから足が外れても勝手に進まない状態にするのかということです。これは、どちらにもメリットとデメリットがあり優劣がつけられないため、所属先やチーム内のポリシーによるところが大きいと言えます。

因みに国連ニューヨーク本部の警護チームでは、ギアをパーキングに入れるように指導されていました。理由は、脅威レベルがそこまで高くない状況を考慮すると、クライアントが乗車/下車している最中にドライバーの足がブレーキペダルから外れる等の人為的過誤で、車が動きクライアントがケガをするリスクを減らす方が有益だと判断したためです。また、ニューヨーク本部の警護車両が全てオートマ車だったこともあり、訓練を積んでいる警護ドライバーなら、もしEnbus/Debusの際に襲撃されたとしても、ギアをパーキングからドライブに入れ発進するまでにかかる時間は短く、リスクにはならないと言う理由もあります。

しかし、同じ国連でもハイリスクのフィールドになると、停車時のギアはいつでもすぐに発進出来る状態でした。(※フィールドでも、オートマ車の比率が随分高くなりましたが、国によっては今もまだマニュアル車を使用しているところがあります)。こうした対応は、人為的過誤によるリスクよりも、襲撃によるリスクの方が高いという判断からでした。

細かいことですが、チームや組織内で事前にこのような取り決めをしておくことはとても大切です。しかし、こうした取り決めをきちんとせずに、各ドライバーの判断に任せてしまっているチームや組織が多いのが現状です。確かな経験と技術があるドライバーなら、環境に最適な選択が出来るでしょう。しかし、そこまでの技量が伴っていないドライバーの場合、誤った選択をしてしまい、その選択が更に悪い状況を作り出してしまう可能性すらあります。

装備と労災の関係」で取り上げた正規装備品と同様に、規則があるのにそれを守らずに勝手な判断を下した場合には、労災になるべきケースでも組織がそれを認めない可能性もあることを理解しておく必要があります。

大きな組織になればなるほど、よほど責任感や正義感があるリーダーがいない限り、何か失態が起きた際に組織やチームは責任逃れに躍起になり、今回のギアのポジションのような小さなこと、もしくはドライバーが良かれと思ってした行為でも、それが規則に反している場合には、スケープゴートにされてしまう可能性があります。

このようなことは停車時のギアのポジションのみならず、シートベルトにも同じことが言えます。特に海外に多いのですが、緊急時に少しでも早く反応が出来るように勤務時はシートベルトをしないというボディガードは少なくありません。シートベルトは、日本のみならずどこの国に行っても安全のため、法律で着用が義務づけられています。したがって、民間警備会社の警護員であれば、警護中に違反で警察に止められるようなことがあってはならないので、シートベルトをしないという選択はありません。しかし、警察や軍、そして政府機関の場合、民間よりは多少融通が効きます。ニューヨークの国連本部の警護チームも、ニューヨーク州やニュージャージー州であれば、走行中にシートベルトをしていなくても、警察はその業務を理解し、止めることはありませんでした。しかし、国連本部のルールでは、警護任務中の警護官であっても法に従いシートベルトをすることが義務づけられていました。ニューヨークやニュージャージーの街中を車で走行中に考えられるリスクでもっとも高いのは事故です。そう考えると、咄嗟に車から降りたり、腰の装備を取ったりする際にシートベルトが邪魔になるというのも、ボディガードとしては理解出来ますが、ここではシートベルトをしないというのは誤った判断です。ACADEMI等の訓練では、シートベルトをした状態からの即時対応するテクニックも学びました。CCPS/CCPS-Wではそういったところも指導したいと思っておりますので、興味がある方は受講を検討してみてください。

ボディガードは、リスク・マネージメントのプロでなければなりません。クライアントへのリスクばかりでなく、己へのリスクに対してもきちんと対策をしておく必要があります。そのためには、チームに配属されたら、人から伝え聞いたことを鵜呑みにするのではなく、きちんと規則を把握しておかなければなりません。


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